●本(『虚構世界はなぜ必要か?』)の3校ゲラを校閲したものを出版社に送った。これで、本の「本文」にかんしてはぼくの手を離れた(はず)。おそらく年末にはちゃんと出るでしょう。
2013年11月の講義からはじまったものが、五年以上かかってようやく本になる。たまたま講義の依頼を受けたことで考えた---ある意味強引にひねり出した---ものがもとになって、一冊の本になるところまで育っていくことになったのはとても幸運なことだ。
自分の興味の「本流」というわけではない題材でもあり、最初は軽めに読める読み物のようなものをイメージしていたのだが、書き始めてみると入り込んでしまって、深みにはまって、それなりにややこしく、難しい理屈をこねる本になってしまった感じはある。そして、(前にも書いたが)はじめて「長編小説」が書けたというような感触をもてるようなものになった。
身の程知らずだということを承知で言うとすれば、この本を書く時にイメージとしてあったのは、吉本隆明の『ハイ・イメージ論』であり、橋本治の『秘本世界生玉子』や『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』といった本だった。アカデミックな研究でもなく、いわゆる「批評」でもないもの。既成の文脈とは無関係に、自分の関心に基づいて、自分勝手にたてた独自文脈のなかで、勝手に作り出した独自概念を使って、独自のフォームで無手勝流にぐいぐいと考えをすすめていくような本が、かつては存在していた(そして、そういうものに感銘を受けた)のだということが心の支えとなった。