2021-04-04

●久々に夢に祖父が出てきた。祖父が亡くなってもう三十年ちかい。亡くなってから十年くらいは頻繁に夢に出てきた。晩年の祖父は医者からタバコを禁じられていたが、トイレで隠れて吸っていた。隠れてと思っているのは祖父だけで、そのことを家族はみんな知っていて黙認していた(居間にかかっている賞状額の裏にタバコとライターを隠していた)。昔の実家には、和式便器のある個室と、立ってする男性用の小便器のある個室とふたつあって、男性用便器の個室には鍵がついていない。男性用個室には立ってするちょうど顔のあたりに換気用の小窓があってそこから庭が見える。夢のなかでトイレのドアを開けると祖父がいてタバコを吸っている。祖父は昔の人にしては体が大きくがっちりしていて、顔も大きくて怖い。無口な人だったということもあって、祖父の記憶はまずその身体的な存在感として立ち上がる。狭いトイレの個室がそれを際立たせる。祖父は「ばあちゃんには言うなよ」と言う。ぼくは、「おじいちゃんはまだ死んだことに気づいてなくてでてきちゃっているのだな」と思うのだが気をつかってしまってそのことを言い出せず、ただ祖父の言葉にうなずく。この「でてきちゃっている」という感じは、親しみでもあり恐怖でもあり気まずさでもある。この夢を何度も繰り返しみた。

今朝方みた夢はこれとは違った。ぼくはまだ子供かせいぜい十代で、昔の実家で一人で留守番をしていた。そこに幽霊のように祖父がいきなり現れた。幽霊といってもそこには強い実在感がある。夢のなかでも祖父は既に亡くなっており、だからぼくは「またでてきちゃったな」と思うが、それだけで、あとはただ「いるな」と思う。この夢は祖父が確かにそこにいるという存在感だけの夢だ。ただ、ぼくには祖父は本来ならばそこにいてはいけない人なのだという思いがあり、しかしそれを言い出せないという後ろめたさがある。しばらくすると祖父は用事があるといって出かけてゆく。入れ違うように家族が帰って来る(父とか母とかきょうだいとかではなく抽象的な「家族」だ)。家族は「またおじいちゃん来てたのか」と言う。なぜ分かるのかと問うと、ポストに伝言が入っていたと言って、なにか言葉が書かれた紙をみせられた。