2021-05-17

●U-NEXTでゴダールの『カルメンという名の女』が観られるようになっていたので、観た。かなり久々だと思うが、いつ以来だろうか。はじめから最後まで、ひたすら「かっこいい」と感嘆するばかりだった。超絶技巧と繊細さに、ぶっきらぼうな粗っぽさが奇跡的に同居している感じ。繊細さと粗さの同居はゴダールのいつものことなのだけど、ここではそれが特に上手く共存・配合されていると思う。

有楽シネマで観た『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』の二本立てと、シネヴィヴァン六本木で観た『カルメンという名の女』の、どちらがゴダール初体験だったか忘れてしまったが、『勝手にしやがれ』と『気狂いピエロ』は「へー、これがゴダールね」というくらいの感じであまりビンと来なかったのだが、『カルメンという名の女』にはガツンとやられてしまった、という記憶がある。あれからもう四十年近く経つ。

(当時ぼくは、『カルメンという名の女』を観てはじめて「人の顔」を発見したというくらいの強いインパクトを受けたのだった。それまでの自分は「人の顔」を個人を識別する徴くらいにしか見ていなかったのだなあ、と、目からうろこが落ちたような感じ。)

ゴダールは、67年に商業映画から離脱して、80年に『勝手に逃げろ/人生』で再び商業映画に復帰するのだけど、この時期の、ゴダールが「今、まさに映画を再発見している」という感じの作品は特に好きだ(『勝手に逃げろ/人生』『パッション』『カルメンという名の女』)。

四十年近くも前の映画によって、当時とまったく同じ映像と音を体験出来るのだけど、映画の外では四十年の時間が経っており、自分も四十年分歳を取っているのだという、このギャップにはなかなかくるものがある。映画を観ている自分が、時間のどの位置にいるのか混乱してしまう。当時の自分が今もそのまま観ているようであり、当時の自分とは遠く離れた自分が観ているようでもある。

(とはいえ、昔はボカシが入って見えなかった部分がほぼ完全に見えるようになっているし、字幕も当時とは別のものになっていた。「それを暁と呼ぶ」が「それは夜明けです」みたいになっていたのに驚いた。そういう意味では、昔とまったく同じではない。)