2021-05-20

●『大豆田とわ子と三人の元夫』、第六話についてもうちょっとだけ。社員たちが総出で、必死に予算削減を検討しているのに、社長の松たか子は(事情があるとはいえ)一本の連絡を入れることすらしない。これは、社長としての責任を果たしていないと言われても仕方なしいし、社員から不信感をもたれても仕方がないことだろう。実際、事情を会社に知らせることくらいはそれほど困難なことではないだろう。でもおそらく、それらを全部分かった上で、(誕生日でもある)今夜だけは、仕事関連のアクセスのすべてを遮断して、(社会的な責任のある社長としてではなく)自分個人としてあり、友人の死と向き合い、弔い、友人と共にある時間とするのだ、ということだと思う。平時ではなく、会社が大変な危機に直面している時だけに、これは強い意志がないと出来ないことだと思う。

(これはこれとして、一方で社員の側からみれば、そんな社長に不信感をもってしまうというのは、それはそれで当然だとも言える。)

(そして、前回を受けて松田龍平にだけは連絡する、というのがなんとも…。おそらく、前回のことがなければ松田龍平にも連絡しなかったのではないか。)

●だがそれは「誕生日」の一日だけのことだ。それが過ぎれば、葬儀の段取りもこなすし、葬式の後はきちんと仕事もこなす。そもそも彼女は、母親の葬儀の日に社長に就任したのだった。松たか子には松たか子の流れがあり、市川実日子には市川実日子の流れがある。松たか子は一日(一晩)だけ友人と共にあり、そして自分の側に戻ってくる。

(前回の冒頭で、母の葬儀の場面---および、布団がふっとんだ---がリピートされていた。また、それにつづく場面で、会議に遅れてきた高橋メアリージュンが「母の具合が悪い」と言うと、こういう時は仕事はいいからすぐ帰るようにと指示した。これを、今回の遠い先触れだったとみることもできる。)

そして仕事を終えた後、松たか子は改めて市川実日子の部屋を訪れる。恋愛の場であり、多くの人々が訪れる(様々な関係性が交錯する)松たか子の部屋のオープン性に対して、市川実日子の部屋の部屋に入ることが出来るのは、本人以外は松たか子だけだ。そこは、諸々の流れから外れた、二人だけの場所なのだ(松田龍平も、この部屋には入れない)。