2021-07-26

ボルヘスの「バベルの図書館」において図書館=宇宙は、正六角形による周期的な平面充填が無限階層積み重ねられているという世界像(結晶モデル)になっている。だがこれを、準周期的でフラクタル構造をもつペンローズ・タイルによる平面充填の重なりという世界像(準結晶モデル)として考え直したらどうなるのだろうか。

(「正六角形=ボルヘス・六回対称性・結晶的」に対する、「正五角形=ペンローズ・五回対称性・準結晶的」という、単純な思いつき。)

ボルヘスの場合、同じスケールの六角形の空間が、横にも縦にも無限に連なっていて、全体としては決して到達のできない球形というイメージで図書館=宇宙を示している。これは、次のようなイメージになる。

What Does Jorge Luis Borges’ “Library of Babel” Look Like? An Accurate Illustration Created with 3D Modeling Software (Open Culture)

https://www.openculture.com/2016/10/what-does-jorge-luis-borges-library-of-babel-look-like.html

ウィキペディアによると、五種類の黄金ゾーン多面体(表面に対角線比が黄金比の菱形のみをもつ等面菱形多面体)により、三次元空間を非周期的に充填することが出来て、ペンローズ・タイルはその二次元への投影図であるという。

ゾーン多面体(Wikipedia)の「黄金ゾーン多面体」の項より

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%B3%E5%A4%9A%E9%9D%A2%E4%BD%93

このようなモデルで考えると、図書館=宇宙の空間構造は次のようなイメージになるだろうと思われる(山口大学理学部数理科学科 数楽工作倶楽部)。

http://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~math/toybox/ko-saku-club/2012-03/index.html

準結晶における、五回(72°)対称性、フラクタル構造、入れ子構造について。(井村敬一郎「美しき数学モデルが魅せる準結晶の不思議な性質」academist Journal)

https://academist-cf.com/journal/?p=15430

《また、結晶は「回転対称性」という性質も持っています。たとえば先ほどの「正方格子」の場合には、ある格子点を中心に90°回転させると、元の状態と完全に一致させることができます。幾何学を使って調べると、結晶に許される回転角は、90°のほかに60°、120°およびそれらの整数倍(たとえば180°など)であることがわかっています。一方、ペンローズ格子には、周期結晶では許されない、72°といった特別な回転操作が許されます。また、ペンローズ格子には、フラクタル性と呼ばれる、スケールをτ倍拡大しても似た構造が現れる性質を持ちます。このように準結晶の構造には、通常の結晶には見られない幾何学的な特徴がいくつも含まれているのです。》

準結晶は変わった特徴を持ちます。準結晶中の原子は、「多面体クラスター」と呼ばれる100個程度の集団を形成します。このクラスターは、正4面体や正12面体、正20面体といったさまざまな多面体が、ロシアのマトリョーシカ人形の様に、入れ子状に重なり合っています。これらの多面体クラスターが、準格子点上に並んでいるものが準結晶です。》

ウィキペディアではよく分からなかったところが、下の「ホームページ」で詳しく解説されていた(八割くらいは分かった……、と思うけど…)。

5回対称性と準周期的結晶 【2】空間充填 (Ikuro`s Home Page)

http://ikuro-kotaro.sakura.ne.jp/koramu/304_5.htm

《平面上の敷き詰めに引き続いて,3次元空間の敷き詰め<結晶>についてみていきましょう.結晶学の常識では,原子が周期的に配列した結晶物質では2重,3重,4重,6重の対称性しか許されないというのが鉄則・大前提になっていました.

なぜ5重,7重,8重などの対称が結晶に存在し得ないかは,同じ形の多角形のタイルで床を敷き詰める場合を考えると分かります.それは5角形や7角形またはそれ以上の辺数の多角形ではあり得ないし,正五角形は平面を埋めつくすことができないことから容易に理解されるところです.

3次元では5回対称軸をもつ正五角形の役割を正12面体や正20面体が果たしますが,正五角形が平面充填形でないのと同様に正12面体・正20面体は空間充填形ではありません.

ところが,1984年に5重の対称性を示す物質(アルミニウムとマンガンの人工合金)がアメリカのシェヒトマンによって発見され,結晶学の根底は揺るがされ,この大前提は覆されました.それまで知られていた結晶格子はすべて正四面体,立方体,正八面体から導かれていたのですから,それはあたかも誰かが5角形の雪の結晶を発見したような事件であったのです.

この物質はペンローズのタイル貼りと密接に関係していて,ペンローズが始めた5重の対称性をもつ敷きつめを3次元空間に一般化したものであり,ある規則性をもちながら周期配列をしないことから,準周期的結晶,あるいは簡単に準結晶と呼ばれます.最近まで,結晶とアモルファスの両方の物質の状態を共有しそのどちらでもない新しい状態があると思っている人はごく少なかったのですが,この準結晶は両方の性質をもっています.

ペンローズタイルと同様にして,2種類の菱面体(太った菱面体とやせた菱面体)でともに合同な面をもつものを用いて,3次元を隙間なく埋める非周期的構造を作ることができます.これら2種類の菱面体は各面の菱形の対角線の長さの比が黄金比1:1.618[=(√5+1)/2]の黄金六面体です.黄金菱面体には2種類あり,細めで尖ったほうがacute(A6),太めで平たいほうがobtuse(O6)と呼ばれています.》

5回対称性と準周期的結晶 【5】まとめ (Ikuro`s Home Page)

《5回対称性をもった正多角形や正多面体は2次元平面や3次元空間を充填しません.しかし,一定の間隙を許すことにすると平面や空間を無限に連結することができます.4次元空間内で,正120胞体あるいは正600胞体を連結すると周期的にも非周期的にも無限に連結するのですが,その場合,3次元空間内への投影は3次元空間を周期的にも非周期的にも被覆することができます.なお,5次元以上の空間には5回対称性をもった正多胞体は存在しません.

2種類の黄金平行多面体を用いて,3次元を隙間なく埋める非周期的構造を作ることができるのですが,この黄金平行多面体による充填図形の平面への投影はペンローズ・パターンと呼ばれる準周期性平面充填となります.すなわち,ペンローズのタイル貼りは,三次元空間を2種類の黄金菱面体で非周期的に埋めつくしたときの平面への投影図であり,5回対称性という物質の新しい状態を2次元的に模似したものになっています.

一般にn次元平行多胞体は1種類(あるいは何種類か)でn次元空間を周期的に充填するのですが,それを3次元空間内や2次元平面上に平行投影して適当に隠線処理すると平行多面体や平行多角形による非周期的な充填図形が得られることになります.その際,正10角形を構成する2種類の菱形で構成される準周期性平面充填をペンローズ・パターンというのですが,それに対して,正8角形を構成する2種類の菱形(正方形を含む)で構成される準周期性平面充填はアンマン・パターンと呼ばれるタイル貼りになっています.》

●(追記)平面充填、ペンローズ・タイルと五回対称性、黄金比準結晶などの関連について、日本語で分かりやすく説明しているものを見つけられなかったが、下の動画を見つけることが出来た。この動画、すごく面白い。英語だが、日本語の字幕を自動生成できる。

The Infinite Pattern That Never Repeats (繰り返すことのない無限のパターン)

https://www.youtube.com/watch?v=48sCx-wBs34