2023/05/03

⚫︎『水星の魔女』、第十六話(プロローグも含めると実質的には第十七話)。これまでバラバラに散っていたさまざまな要素が、ギュッと一箇所に集まってきて、この先、物語が新しいステージに入っていって、クライマックスを迎えるのだろう。きたきたきた、という背筋が震える感覚。

『水星の魔女』では希薄だったニュータイプ系の主題が、プロスペラの二人目の娘(というか、最初の娘)の出現で前面に出てきた。プロスペラはいわば、ニュータイプの可能性(ガンドの理念)を私怨によって独占的に支配しようと目論んでいるというわけだ。

(プロスペラは多くの仲間を理不尽に失ったのだから、これを「私怨」というのは適切ではないか…。)

父と息子との抗争においては、概ね息子の側が実権を握り、若い世代が本格的に社会の改革を(クーデター的な形であるが)推し進めようと動き始める。文字通り、(図らずも、だが)父を殺して放浪していたグエルは本来の場所に帰還し、シャディクは周到に練られた「革命」の実行をはじめる。彼らの目的は宇宙と地球との分断の是正であり、不当な既得権の解体であろう。

これに対するのは、もちろん、現状を維持しようとする体制側であるはずだが、それだけでなく、別の動機で世界の改革を画策するもう一人の革命家プロスペラも存在する。プロスペラは、娘(エリイ・目的)のために、娘(スレッタ)を「手段」として支配する。彼女の世界の(社会の、ではない)改革の目的はただ「娘の存在」の確保であり、仲間を殺した者たちへの怨嗟であろう。

ここで、体制側とは、ベネリットグループであり、それを代表するMS開発評議会であるが、しかし、総裁であるデリングは意識不明の状態だし、ザリウスは義理の息子シャディクに拘束されており、ヴィムは息子のグエルに殺されている。残っている有力者は、自分たちも強化人士を使ってガンダムを使用しているペイル社の不気味な魔女(?)たちと、オリジナルのエランくらいだ。

(父たちは概ね敗れ、不気味な母たちが支配することになった。)

ここでシャディクが、ベネリットグループの総裁選に出ることになって、これがうまくいけば、(あくまで「表向きは」だが)合法的な革命が成立する。だが、ペイル社がそれをすんなり認めるとは思えないし、もしかすると、帰ってきたグエルが、シャディクと争うことになるかもしれない(現時点で、グエルがどう動くのかは全くわからない)。ミオリネも、とりあえずはプロスペラの意向通りに、プロスペラの駒として動かざるを得ないのだろうから、総裁選に参加するのだろう。

まず基本に宇宙と地球との戦いがあり、そのような構図を書き換えようとする反体制側と、維持しようとする体制側との戦いがあり、しかしその時、体制側にも、反体制側にもそれぞれ異なる複数の勢力がある。これらの複雑な力のせめぎ合いが、とりあえずは一旦、ベネリットグループの総裁選というゲームになだれ込むことになるのだろうか。

(また、それに加えて「宇宙議会連合」の動きも無視できない。)

しかし、最も重要なのはこのような見取り図そのものよりも、そのような勢力分布の中で発生する、プロスペラとエリイとスレッタとミオリネとの関係であり、その力の抗争であり、それが社会・世界のありようにどのように影響を与えるのかということだろう。この四人の中で、エリイの動向とその力とが、今のところ全く未知数であり、彼女の「意思」がどう動くのかが重要な鍵になってくると思われる。

⚫︎今のところスレッタは、『リコリス・リコイル』のアイロニーを遥かに超えたところで、アニメ史上で最悪のヒロインの一人であり、「ウテナ」のアンシーに最も近い位置にあるヒロイン=怪物だと思われるが(アンシーが謎に包まれた他者・怪物であるのに対し、スレッタは謎が何もないこと―素直ないい子であること―によって他者・怪物であるのだが)、そんな彼女が、ミオリネと、そしてエリイとの関係の中で、どのようにして、どのような形で「主体化」していくのだろうか。