2023/08/31

⚫︎『あなたの顔の前に』(ホン・サンス)をU-NEXTで。これはなんなのだろう。主人公の女性の命が長くないだろうということは映画が始まってすぐに察せられるし、女性に会おうとする監督の下心もあからさまにミエミエだし、監督がクソ野郎だということもすぐにわかる。事前の予想通りに話は淡々と進み、捻りも意外性も何もない。ただ、一人の女性と共に、そのような時間がそのようなものとして流れる。そして映画の最後に、ああ、妹の夢の話が聞けなかったのだなあと思う。ホン・サンスの多くの映画では「夢」が印象的だが、この作品は「夢の不在」が印象的だ(監督の裏切りによるダメージ以上に、妹の幸福な夢の話を聞きそびれてしまったという喪失の方が強く心に残る)。これで全然十分だし、過不足なく素晴らしい映画だ。

(ホン・サンスの映画に出てくる男の見事に卑小なクソさ加減。監督がクソ過ぎて笑うしかない。怒りや失望ですらない。ただ、ああ、と言うしかない。失望ですらない「ああ」を噛み締める。苦さでもない、味もしない、歯応えもない。ただ笑い、空を噛むように噛み締める。祝福としての世界の隅に、今、どうでもいいものが通り過ぎた、と。)

(長い長い長回しのカットの中で主人公が弾く、あのギターはなんなのだろうか。およそ、今まで映画の中で聴いたことのないような「音楽」の失調の仕方。)