7/10(月)

あけっぱなしの窓から、蜻蛉が迷いこんできた。方向を失ってあちこちの壁にガンガンぶつかって、それでも外へ出られないのでパニックに陥ったらしく、やたらと羽根をバタつかせてはスピードを増しさらに出鱈目な方向へ迷走して激しく何度も壁にぶちあたる。やがて、冷静になったのかあきらめたのか静かになった。しかししばらく間をおくと、再び迷走しては壁にぶつかることを何度も何度も繰り返す。激しい羽根の動きでブンブン音がする。

捕まえて外へ逃がしてやろうにも、あまりに激しくあがいているので、捕まらない。そのうち疲れるだろうと思って、放っておくことにした。部屋を縦横無尽に飛びまわっては、至る所に頭をぶつけつづける。

静かになったので、そろりそろりと近寄ってその蜻蛉の羽根を2本の指で挟むようにして捕まえて外へ逃がした。蜻蛉や蝶を捕まえるには、素手で、ピースマークをつくり、人指し指と中指で、サッ、とその羽根を挟んでやるのが一番確実だ。網も必要ないし、昆虫自体をほとんど傷つけずにすむ。ぼくはこのやり方を、中学のとき、同じ学校の特殊学級にいた、「ムシトリ」とよばれていた虫捕りの名人の男の子から教わった。

今年初めて見た蜻蛉だった。この蜻蛉のせいで、何年も思い出すことさえなかった「ムシトリ」という人物のことを思い出したし、蜻蛉を捕るなんて無茶苦茶久しぶりなのに、ムシトリ直伝のやり方だと簡単にできるのだ、ということを知ることにもなった。