台風が行ってしまった後、気のせいか道路の両側に生えている木々の緑が、まるでこちらに迫ってくるようにいつもよりももくもくと茂っていているように感じられる。
道路の端、やや低くなっていて、そこから下水へと通じる穴が開いているところから、まるでわき水のように、水がさらさらと溢れて流れ出ている。その水がアスファルトを黒く濡らし、おおきな水たまりをつくっている。水たまりの水面には、台風一過の、まだ雲が多く残ってはいるものの真っ青な空が映っている。たまに通る自動車がその水面を乱し、水飛沫をあげて通り過ぎ、濡れたタイヤの跡が乾いた道路上に2本平行に並んでつく。強風で倒れかかった木が、斜めになって道路に迫り出している。
真冬のように澄んだ空。やけに明るく白い光を発して輝く雲。濃く澄んだ空の青は、あまりに明るい雲の白とのコントラストで暗くみえてしまうほど。地上でも、明暗のコントラストが異様な程はっきり強く出ている。人の背丈くらいの木。親指の爪くらいの小さな葉をびっしりとつけ、さらにそれより小さいラッパ状のビンクの花がそのなかに散らばって咲いている。花の色は、太陽を背にして見るときと、太陽に向かっているとき見るのとでは、ぜんぜん違った印象になる。つよい日射しで太陽の下は暑いけど、湿気があまり無いせいか、影になっている場所は涼しい。何のか目的があるのか、家の脇にに置かれている大きな鉢だか壷だかに、いっぱいいっぱい水が張っていて、角度によっては太陽が反射して眩しい。螺旋状になっている非常階段の影が、ビルの壁に奇妙な形になって落ちている。歩いていると、まだ至る所に水たまりが残って風景を反射している。テニスコートの横の道を、ガラガラガラと大きな音をたてて、黄色いテニスボールがびっしり詰まったカートを押して歩く2人組。
木々が生い茂る林の真ん中を突っ切る道を通り抜けている時、いきなり、という感じでジィーッ、とかザァーッとかいうノイズ音のようなものにぶつかった。何の音だろうと思ってしばらく行くと、だんだん焦点が合ってくるように音にまとまりが出てくる。どうやら蝉の声らしいと気づく。一方からだけ聞こえていた音が、そのうちあちらからもこちらからも聞こえてくるようになる。真夏の図々しいほど無遠慮に迫ってくるようなジージーいう音よりも力弱い、心もとない音。生まれたて(変態したて)でまだ羽が濡れて柔らかい、とか、そんな感じの音。(本当にそうなのかは知らないけど・・)まさに今、鳴きはじめたところにぶつかった、という感じの音。(本当にそうなのかは知らないけど・・)
西瓜のようなあまいにおいの風が吹いた。