くすんだ赤の、薄汚れたシャツを着た、長髪に鬚の、見るからに挙動不振な男(何故か、ほとんど毛の抜けたボロほうきとちり取りを持っていて、まるでそうすれば周囲から目立たなくなって自分の存在をカモフラージュすることが出来るとでも思っているかのように、掃除するフリをしたりしている。勿論、浮きまくっている。)が、やたらとこちらを、ちらちら見ているので、ヤバいなあ、と思っていたら、案の定、周囲に人気がなくなったところで、つつつ、と、おもむろに近寄ってきて、ポケットから取り出した手帳のページを2枚切り取って、『これ』と言ってぼくに手渡し、今の行動を誰にも見られなかっただろうな、と周囲を見渡して、ささっと素早く離れ、また、掃除するフリをはじめた。
その紙片に書かれていることは、まあ、いかにもそういう人が書きそうな、世界の陰謀を巡る被害妄想的な内容で、支離滅裂で、誤字脱字だらけの文章がつづられている訳だけど、それをぼくに手渡すときの男の目が、何にも言わなくても俺には分かっている、お前はこれを理解できる奴だろう、お前は仲間だろう、とでも言うように、やたらと確信に満ちていたのが気になって、もしかしたらぼくも、もうすぐそちらの世界へ引き込まれてしまうのではないか、と少し不安になったりした。全てボールペンで書かれたその文章の最後に、但し書きのように鉛筆で『ご協力に感謝します。この紙を返すことをお願いします。』と書き加えられているのも、妙に気になる。
相変わらず、作品にはほとんど手がつけられない状態。夕方、小雨に濡れながら、ふらふらと散歩する。古本屋でクリント・イーストウッドの『アイガー・サンクション』のビデオを500円で購入。