京都で印象的だったのは...

●京都で印象的だったのは、ナンテンの赤い実と、ハッサクとかポンカンみたいな柑橘系の黄色い実をつけた木が目についたことで、京大の近くでも、待ち合わせの時間より少しはやくついたので正門のまわりを歩いていたら、民家の角にナンテンが真っ赤な実を溢れるほどつけていて、その家の庭には、二階の屋根を超えるくらいの高さの、葉の緑が濃く粒だった木が植えてあり、その木に黄色い実がびっしりとついていたのが目に焼き付いている。
●対談の翌日、宿を朝9時過ぎには出て、ぶらぶらと歩いた。京都の地理は全く分からず、自分が今どの辺りにいるのか、例えば京都駅からみて、どの方角へ、どのくらいの距離にいるのかも見当がつかないまま(京大へは、地下鉄の駅からタクシーだったし、宿へも、京大からタクシーだったから)、右も左も全く分からないけど、天気もよかったし、あたたかい日でもあったので、とりあえず歩いてみることにしたのだった。京都は観光地なので、大きな通りに出ればタクシーが容易にひろえるということを前日に学習していたので、飽きたり疲れたりしたところでタクシーに乗って京都駅に向かえばいいや、という感じで、歩いた。知らない土地で、方向も分からず、しかし迷う心配もなく歩くというのは、とても面白いのだった。コンビニに入れば京都の地図なども売っているのだが、あえてそういうものは見ないで、飲み物だけ買って出て、小一時間もふらふらしていた。そのうち、バス停があったので、バス停の名前を見てみたら「京都市役所前」と書いてあって、しばらく先にやけに立派な建物があって、それが市役所だった。市役所の前ではフリーマッケットをやっていて、それをのぞいていたりするうちに、日射しも心地よくてぽかぽかして、すっかり和んでしまって、美術館や博物館をいくつも廻る予定だったのが、どうでもよくなってしまって、今日は一日、京都をぶらぶら散歩して過ごそうかと思いはじめた。欲しいレザーのジャケットが安く売っていたのだけど、これから一日、大きくて嵩張るものを持って歩くのは嫌だったので買うのはためらわれた。市役所のすぐそばには川があって、それがどうも鴨川らしい。鴨川とはいっても普通の川で、うちの近くにある川と基本的には変わらないのだけど、河原に降りると河原の空間は開放的でとても気持ち良くて、河原をずっと歩いた。河原では、犬が嬉しそうに駆け回っていたり、カップルがいちゃいちゃしていたり、一人で座って何か食べている人がいたり、鳥の写真を撮っている人がいたりで、それもまあ、普通に河原の風景だった。しばらく河原を歩いていると、妙な建物が目についたので道路まで上がってみた。(それは「中華菜館」(「東華菜館」の間違いでした)と「南座」だった。)上がってみると、やけに人通りがあって、狭い歩道を人がびっしりと埋め尽くしていた。アーケードに掛かっている「のれん」のようなものに「祇園商店街」と書かれていてなんとなく納得した。その祇園商店街を、大勢の人の流れに合流して、八坂神社の鳥居の前まで行き、そしてそのまままた鴨川まで戻ってきた。戻ってからようやく近くのコンビニで文庫版の京都の地図を買って見てみると、すぐ近くの京阪線の四条という駅から二つ先の七条という駅の近所に、国立博物館があることが分かり、ここでは今、狩野元信の大徳寺大仙院の四季花鳥図や池大雅の万福寺の障壁画、あと宝誌和尚立像などが展示されていると事前に情報を頂いていたので、とりあえず次はここを目指そうと、電車に乗るために地下へ降りたのだった。(づづく)