●電車に乗ってうとうととしていたら、やたらと興奮したカン高い調子で喋る女の子の4人組が途中の駅で乗って来て、なんだこいつらうるせーなあ、と思っていたのだが、そのおしゃべりを聞くと(聞き耳をたてていたわけではなく、嫌でも聴こえてしまうのだが)その4人は美大の受験生らしくて、どこかの大学の試験の帰りのようだった。(二人が油絵科、もう二人がデザイン科のようだった。)聞きたくなくても聞こえてしまううるさいお喋りを聞いていると、その話の内容(入試の課題、使っている画材やテクニック、受験会場にいた変な奴の話、いくつかの有名予備校の噂、そして、そのはしゃぎようのなかに透けて見える緊張と不安、等)が、ぼくが受験生だった20年前と様子がほとんどかわっていないことに驚いた。女の子たちは、こんなに早く帰れるの久しぶりだよねー、とか言いながら、これから遊びにゆく先について相談していたりもして、おそらくここ数ヶ月は、起きている時間のほとんどを予備校のアトリエに押し込められて、無理矢理テンションを高めるように煽られつつ絵を描いて過ごしていたのだろうから、この場違いなはしゃぎぶりも仕方がないか、と思ったりした。試験の帰り、過剰な緊張を強いられた後で、久しぶりにポカッと空いた数時間を、喜びつつも、持て余す、ふわふわした感じとか、すごくリアルに記憶が蘇ってきた。席が空いて、ぼくの隣に座った女の子の服からは、ほんのりと油絵の具の匂いが漂ってきた。異様なテンションではしゃいでいた女の子たちは、駅を一つ乗り過ごしてしまい、その次の駅で急いで降りていった。