●夢のなかで目覚めたら、そこは、今はもうない古い実家の建物の祖父母が寝起きしていた部屋で、縁側のあるその部屋の戸が全開になっていて、庭の様子が目に入って来た。庭には木々が生い茂り、生々しくむせ返るほどの緑で、まるで山の奥深くが庭の空間にふいに繋がってしまったかのようだった。ぼくは身体がだるくて起き上がることは出来ないのだが、再び眠ろうとしても目を閉じることが出来ず、生い茂る木々の、葉の一枚一枚、枝の一本一本までが異様なまでの鮮明さで目に飛び込んで来て、それを見続けていなければならないと強制されているかのようだ。空気はしっとりとしていて、霧のようなものが薄らかかっていて、その霧の粒子の一粒一粒が動いているのさえ、はっきり見えている。むせ返るほどに生い茂る木々はしかし、ちょうど庭の広さぶんくらいの広がりしかないらしくて(と言うか、ちょうど庭の広さぶんだけ、山奥の別の空間が切り貼りされているようで)、その向こうには普通に道があり、道の先には向かいの家があるのも見える。向かいの家の庭には、赤いスポーツカーと、毛艶のうつくしい馬が見える。ぼくが横たわっている部屋の隣は応接間と呼ばれている洋風の部屋で、応接間とは言っても実際は物置のようになっていて、普段使われないものが雑多に置かれている。その隣の部屋から、二人の人物が何か世間話のような話をしているのが聞こえて来る。ぼくは、自分が今ここにいることを、隣の二人に気付かれてはいけないと思っていて、できるだけ気配を殺し、物音もたてないように注意しつつも、庭の木々の表情の鮮明さに目を釘付けにされている。
●今日の空http://www008.upp.so-net.ne.jp/wildlife/sora.9.10.html