08/03/22

(この日記、書き直しました。すげえバカみたいな間違いをしていたことに気づいた。シェルカウイとジャレを間違ってた。自分の眼が信用できない。)
●西巣鴨の、にしすがも創造舎で「スリー・スペルズ」(ジャレ+シェルカウイ+ジルベール+フェネス)、清澄白河のTKG Contemporary / 小山登美夫ギャラリーで、福居伸宏展「ジャクスタポジション」。
●「スリー・スペルズ」は、去年埼玉で観た「ゼロ度」(アクラム・カーン+シディ・ラルビ・シェルカウイ)で圧倒的に素晴らしかったシェルカウイがとにかく観たくて行った。シェルカウイが出るらしいという以外の事前の知識はまったくなかったけど、昨日知って、とにかく速攻チケットを予約した。「毛皮のヴィーナス」(10分)「ヴェナリ」(17分)「アレコ」(24分)という三つの演目で約一時間のダンス作品なのだが、シェルカウイは振り付けのみで、出てなかった。
●「毛皮のヴィーナス」。白い毛皮にすっぽりとくるまった女性ダンサー(アレクサンドラ・ジルベール)が舞台中央にいて、うねうね動く。この動きがすごく気持ち悪くて変で、そこにある毛皮のなかに、一体どういう状態で人間がはいっているのか、最初は全く見当もつかない。エイリアンみたいというか、フランシス・ベーコンの描く変な怪物みたいな感じで、白い物体がうねうね、ぷるぷるしていて、その動きを人間がしているとは信じられない。その動きが、次第になんとなく人間ぽくなって、その白い物体(毛皮)から、出産されるように黒い衣装の女性ダンサーが出て来る。そして今度は、生まれた女性と生んだ白い怪物(毛皮だけど)とが戦うように絡み合い、最終的に女性が勝利する。作品の展開としては、ありがちな「神話的展開」で、退屈だとしか思えないのだが、最初のまったく人間を感じさせないうねうねした動きから、終盤の白い怪物とのもみ合いまで、ジルベールという女性ダンサーの動きがとても魅力的ではあった。
●「ヴェナリ」。これはぼくには、その面白さがまったく分からなかった。最も退屈なタイプの神話的想像力のダンスによる翻訳としか思えない。そこでなされる動き(ダミアン・ジャレ)がたとえ立派であっても、というか、立派であればあるほど、返って退屈さが増すばかりだ。こういうのは、ヴッパタール舞踏団みたいに、キワモノと物量で下世話にやった方がずっと面白くなるのだろう。
●「アレコ」。ノッケから、ジルベールが、座った姿勢で、両手、両足と長い髪とを絡み合わせて、一体あなたの身体の状態は今どうなっているんだ!、手と足とがなんでそんな風に絡むんだ!、という妙な動きをするのが無茶苦茶面白い。一見、ホラー風というか、楳図かずお風というか、表現主義的な動きにも見えるのだが、決して、とり憑かれてる系ではなくて、隅々まで冷静にコントロールされているのが分かるような、妙なのにエレガントという風なものだ。このダンサーは、立っている状態よりも、座ったり、横になったりしている姿勢での動きがとても面白い。
そこにジャレが登場。まず、カンフー映画風のやり取りで客を笑わすのは、まあ、軽いサービスといった感じだろう。ジルベールは長い髪を使ってジェレを撃つ。しばらくもみ合った後、シェルカウイがジルベールの髪を掴むと、ジルベールは自らの髪をハサミで切ってジャレから逃れる。(次の舞台もあるはずだから、これはきっとカツラなのだろう。)そして、ジルベールがとてもうつくしい歌をうたう。何語か分からない、ちょっとオリエンタル風のメロディ。音響によってその歌にズレがつけられ、さらにジャレもズレて歌う。ここから後が圧倒的に素晴らしかった。
横たわるジルベールに、ジャレはまったく触れることなく、ただ、その歯でジルベールの衣装を噛んで引っ張る。ジルベールの衣装は非常に伸縮性にすぐれていて、すーっと伸びる。その、衣装の布の伸縮する、ごく弱い力だけの作用で、二人は横たわったまま、絶妙の絡み合いをみせる。力の支点は、ジャレが噛んでいる歯と布にあるのだが、布が伸び縮みすることでその力が不安定に分散し、その分散した不安定な力の作用によって二人の動きが起動し、振動し、絡まってゆくのだ。不安定で微弱な力が繊細に受けとめられ、そこから波紋のように、きわめてやわらかい動きが繰り出され、それが相手にも作用してゆく。この場面は本当に素晴らしいのだが、ここでは、主な動きをみせるのはジルベールであり、ジャレはあくまでサポートという位置に留まっている。(この、アレクサンドラ・ジルベールというダンサーは、相当面白いと思った。)
最後に、ジャレのソロがあった。何というのか、柔道の受け身のような動きでごろっと横たわったかと思えば、そのまま滑らかに、フィルムの逆回転のように起き上がるというように、動きの始点も終点もなく、勿論、反動をつけるような動きなど一切なく、様々な運動が途切れなく連鎖していて、しかもどこにも力が入っていない(どこで力を支えているのかよく分からない)ようなやわらかな動きがつづく。このままずっと観ていたいと思った。今日はこれを観られて本当に良かった。