●『風立ちぬ』を観てから一か月くらい経つ。この一か月、集中的にというより恒常的にという感じでずっと宮崎駿をDVDで観ている。一日に一時間くらいずつ断片的に観るという感じで。劇場用の長編は一通り観直したし、「ハウル」と「千と千尋」は二回、「もののけ姫」はここ半月くらいで三回観た。
もののけ姫」について、8月24日の日記で「すごいけどいまひとつ面白くない」と書いているのだけど、観る度に「すごい」の方が強くなってくる。何がすごいと言って、動物の描写がすごい。とにかく、山犬や(オリックスみたいな)ヤックルのフォルムや動きが見たくて何度も観てしまう。そして、「もののけ姫」を観るとまたさらに、犬やイヌ科の動物のフォルムや動きが好きになってくる。
(例えばラストの場面で、サンと共にいる山犬はもはや「神」ではなくなっていて、ただの山犬になっているように見える---その違いを説明抜きで山犬の佇まいだけで示している。森が神のいる場所ではなくなって自然科学の対象へと変化したことが、このほんのちょっとした描写で示されているように思う。)
あとやはり、サンがタタラ場に侵入する場面の動きが、観れば観るほど面白い。ちょっと「ジャングル黒べえ」を思い出したりするのだけど。
●「ハウル」を観て思うのは、ハウルはイケメンでヘタレでチャラい奴で、宮崎駿が最も嫌いそうなタイプにも思えるのだけど、その感じがすごく生き生き描かれている。「ハウル」という話は言ってみれば、若くて美しい(そしてヘタレ)青年を、三人のお婆さんたち(ソフィー、荒地の魔女、サリマン先生)が保護しつつも取り合うという話だとも言える。いわばハウルは、お婆ちゃんたちにかわいいかわいいと言ってかまってもらっている孫みたいな感じで、そこに宮崎駿の願望が無防備に出ているような感じがする。宮崎駿ハウルになりたいんじゃないか、と。