●『インランド・エンパイア』を4回観たということは、一体、あのローラ・ダーンのどアップを何時間見つづけたことになるのだろうかと考えると、笑えてきた。ただそれだけで、相当におかしなことだ。
もし道ですれ違ったら挨拶してしまいそうだ。ローラ・ダーンがそこらへんを歩いているわけはないのだが、しかし、そこらへんを歩いているおばさんとかにいそうな顔ではある。いや、いそうでいないところが絶妙なのか。そもそも、どアップじゃないと気づかないかもしれないのだった。
だいたい、編集中のリンチは、ああでもないこうでもないと試行錯誤する間、来る日も来る日もローラ・ダーンのどアップの映像を繰り返し観ていたはずで、それも尋常じゃないことだ。本当はリンチは、その時こそ一番幸福だったのかもしれないのだが。
(あの執拗などアップの連続は、誰よりも編集中の監督こそが真っ先にうんざりしてしまいそうなものなのだが、それでも、こうでなくてはならないのだ、という確信によって、それをやり切ってしまうリンチは、やはり普通ではなくて凄い。)