08/05/30

●本のためのゲラの直しをして、書評のための本を読んで、「組立」展で配布するフリーペーパーのための原稿を書いて、一日が終わる。とにかく、頭を「書く」モードにしてする仕事はここ二、三日ちゅうに終わらせて、そのあと切り替えて、「読む」モードでやるべき仕事がまだ、ごっそり半分残っている。むしろそっちの方が大変。
いまおかしんじ『おじさん天国』をDVDで。改めて観直しても、やはりすごい傑作だと思った。(強弁であることを承知の上で、)ぼくが知っている限りで、Jホラーの最高傑作ではないかと。しかも、こんなに幸福なホラーがあり得るのかと思うほどに幸福な映画。この、ゆるゆるの幸福感こそが、死への抵抗であり、呪い(運命)の解除であり、超越性への担保となる。
世界のなかにある激しい振動-振幅(愛/憎、快楽/苦痛、生/死)の徴候であるとともに、それをそこに封印するためのおまじないでもあるかのような、苛烈さとゆるゆるさの境に浮かび上がる、女の子の背中に赤いマジックインキで書かれた「高山たかし」という文字(だからそれは、風呂でいくら洗っても消えないのだ)。この文字による封印で可能になった、微温的な密着感のなかで互いを適当に許し合うゆるゆるな世界では、夢と現実とが自然につながり、生と死との境目さえも消えてしまうほどに幸福だ。(幸福なのは映画を観ている観客であって、この映画のなかで、世界の苛烈さを一手に引き受けさせられている「おじさん」は実はあまり幸福でないかも知れないのだが、しかしおじさんには、彼の性交の要求を適当な感じで受け入れてくれる多数の女性が存在するし、働かないおじさんに居場所を提供してくれる若いカップルの友人もいて、そのカップルのおかげで最後にはちゃんと地獄から生還できるので、やはり幸福なのだ。)勿論これは完全な幻想の世界ではあるのだが。
あと、車のなかでの性交シーンを撮らせたら、いまおかしんじは世界で一番上手いんじゃないかと思った。(『たまもの』でもそう思った。)