●夢のなかで、熱帯地方を旅していた。道があってないような山道を、激しく揺れ、砂埃をたてて走る、荷物をたっぷり積んだトラックの荷台の上にいて、振り落とされないようにしがみついて移動していた。集落に着き、まったく言葉の通じない人と身振り手振りで交渉して、ようやく一晩泊まることのできる部屋を確保した。一緒に旅している人たちと別れて部屋に入り、とにかく疲れ切っていたので、ベッドに倒れ込むようにして、眠りにつこうとするその瞬間に、自分が何故、今、ここにいるのか分からないということに気付いた。今朝は、どこで何をしていただろうか。確か、朝方まで原稿を書いていて、少し焼酎を飲んで六時頃に寝たはずだ(これは、この夢を見ている「眠り」につく前の記憶で、つまり夢の中と外の記憶が繋がったのだった)。しかしそれから先の記憶がなく、いきなり、山道を走るトラックの上まで飛ぶ。そしてさらに、自分がどこに向かおうとして、何のためにここにいるのかも分かっていないことにも気付いた。今の自分に分かっているのは、とにかく疲れ切って「ここ」に居るということだけだ、と。何も分からず、ただ存在しているだけ。それは何というか、あらゆる「確か」だと思っていたものから切り離されたような、すごく大きな不安だった。