●川沿いを散歩。今日はあたたかくて、土曜でもあるので、川原には人が驚く程大勢出ていて、みんななんとなく軽装で、リラックスした空気がひろがっていた。広く開けた場所に大勢の人がいて、それぞれがバラバラに勝手なことをやっていて、しかしその場全体の空気がのんびりと流れていて、という場に居合わせるだけで、ぼくは簡単に幸福になってしまうのだった。昨日の日記では、花粉症だから春が来るのが待ち遠しくないと書いたけど、「寒くない」というだけのことで、人はこんなにも容易に、気持ちからも体からも緊張感が抜け、輪郭のぼやけたようなゆるい空気がひろがるのだとしたら、春になるのは決して嫌なことではないと思い直す。
土手の道をずっと歩いてゆくと、二本の川が合流するところに出て、遠く向こう岸にある野球のグランドでは少年野球をやっていて、子供の声とバットにボールが当たる音が聞こえてくる。こちら側の岸も、合流点から先は川原が広くとられて芝生になっていて、犬がフリスビーに向かって走り、おっさんたちのグループが凧を上げ、ビニールシートを敷いた家族が弁当を食べ、父親と息子がサッカーボールを追いかけ、すれ違ったおばあさん二人が今日はあたたかいですねえと挨拶をかわし、半袖シャツ姿のウォーキングのおっさんが足早に歩いてゆき、子供がぐずって母親にもたれかかり、車いすの人とその付き添いの人がぼんやりと川を眺め、ジャージ姿の集団が声をあげながら二列に並んで走り、スーツ姿の人がタバコを吸い、大学生くらいの女の子が一人で本を読んでいて、スケボーに乗った少年がバランスを崩してスケボーから飛び降りると、その勢いでスケボーが反転して、空を向いた車輪がくるくると空転する。橋の下辺りではフルートの練習をしている人もいた。何日か前に通った時は、平日の昼間で人はあまりいなかったのだが、川に向かってあぐらをかいて座り、三味線の練習をしている人がいたことを思い出す。前足をあげた姿勢で、後ろ足で地面を蹴ってジャンプし、じゃれるように飼い主にまとわりつく犬を見ていて、同じ四つ足の動物でも、体の動かし方が猫とはまるっきり違うのだなあと思う。去年の大雨の時の増水のせいで傾いている、いかにも貧相な、枝の細い木にカラスがとまると、その重さでいまにも折れそうな感じで枝がしなる。これだけの重さをもつカラスが、翼をおおきく広げるといとも簡単に再びふわっと宙に浮遊できることを、いつも、見る度に、不思議に思う。