●アニメの『げんしけん2』を最後まで観た。これで、『げんしけん』第一シリーズ+OVAの15話と、『2』の12話で、あわせて27話分も「げんしけん」のメンバーたちとつきあったことになって、一話では大学に入学したばかりだった(一応は主人公と言える)笹原君も最終話では就職先が決まったのだった。ぼくはアニメを観てもキャラクターに思いいれを持ったり萌えたりすることはほぼないのだけど、この作品に限っては(作品としてすばらしいという感じではあまりないのだけど)、登場人物たちが皆、他人とは思えないとまで感じるようになった。これは基本的にリアルな「人間」の話だなあ、と。
(「げんしけん」とは現代視覚文化研究会の略で、そういう名前の大学のオタク系サークルの話です。)
特に女性キャラのリアルさが際立っていた。まあ、春日部さんに関しては「春日部-高坂」というカップルが作品を動かすために配置されたキャラという感じなのでそれほどでもないけど(とはいえ、作品が進むにつれて春日部さんも少しずつリアルな感じになってゆき、それと反比例するように相手の高坂君はどんどんあり得ない宇宙人のような天然キャラになってゆく)、大野さんと荻上さんという二人の女子キャラは、この二人のことを実際に知っているとしか思えない感じにさえなった。「こういう人いるよね」というあるあるネタを越えて、「この人のこと知ってる」としか思えないような実質感がある。大野さんのじとっとした感じとか荻上さんの痛い感じとかが、露悪的にならない絶妙のさじ加減で出ている。大野-田中カップルのリアルさとかもかなりなものだと思った。これはきっと原作の力が大きいのだと思うけど(読んでないけど)、アニメでもこんなにリアルな女性像をあらわすことができるのか、と思った。
だがぼくには何といっても、朽木君の空回りっぷりと愛されなさっぷりが他人とは思えなくて観ていて心に刺さるのだった(朽木君は基本的に「ひたすらうざいだけでいてもいなくても同じ」というキャラなのだが、時々とんでもない地雷を踏む、それが、悪意がないだけにいっそう始末に負えない)。特に、27話中でほとんど唯一の朽木君中心のエピソードと言える、コスプレ泥棒を防いだのに逆に疑われて、追いつめられてキレて暴走してさらにひどいことになって益々嫌われてしまうという場面は、別の回の、コスプレした春日部さんが盗撮男を捕まえて喝采あびるエピソードとの対比も鮮やかなのでなおさら、あー、朽木ぃー、……、という感じで、心が痛くて観ていられなかった(でも、笑えた)。もう、どうしてこうなってしまうのかというような目を覆いたくなる空回りと悪循環で、他人事とは思えず、あー、こういう人はきっと、これんら先もずっとこんななんだよなあ、と。
でも、この作品がすばらしいのは、朽木君の愛されなさと原口君の愛されなさをちゃんと別物として描いているところだと思う。朽木君の愛されなさは、それでも「愛すべき愛されなさ」になっている。さらに言えば、原口君の徹底的な「嫌な奴」っぷりさえも、完全に否定的に描かれているのでもない。そういうところが、うつくしいなあというか、上品だなあと思う。
(キャラとしてはスージーがすばらしかった。『ロボティクス…』の神代フラウにも通じる感じ。)
ただ、最終回がかなりシビアで痛々しくもある笹原君の就活エピソードなのはちょっと厳しかった。シビアな就活エピソードは最終話の一回前くらいにして、最後はもっと「げんしけん」っぽいゆるい感じで終わってほしかったと、少し思った。でも、全体としてすごく「いい話」だと思う。