●『エヴァQ』をDVDで。劇場で観て以来の2度目。劇場で観た時と同様にかなり退屈したのだけど、退屈の原因はおそらく、60分くらいで語るべき話を90分に間延びして語ってしまっているからではないかと思った。話自体がつまらないわけではないのかもしれないと思い直した。
改めて観て気づいたのだけど、これはあからさまに「2」をめぐる話だということで、「2」による関係が破綻して、最後に「3」に至るということなのではないだろうかとも思った。
この作品には様々なペアが登場する(冒頭場面から、マリが「ひとりじゃないの」を歌っている)。中心にいるのはもちろんシンジとカヲルのペアなのだけど、ほかの人物たちもアスカとマリ、ミサトとリツコ、ゲンドウと冬月というペアとして登場するし、ネルフに対してヴィレという組織が出来ている。ヴィレのヴンダ―という戦艦(?)は二つの頭と一組(二本)の腕(翼)を持っているような形態なのに対し、エヴァ13号機は、一つの頭に二組(四本)の腕を持つという形態で、対になっている(形態として相補的)とも言える。そして、リリスにはロンギヌスの槍とカシウスの槍という二本の槍が刺さっている。前作からの14年の空白というのも、シンジの年齢と同じであり、14×2ということもできる(あるいは、「Q」は「巨神兵…」と二本一組で上映され、DVDにもペアで収録されている)。
このようにペアが支配する作品世界でペアからはずれているのが綾波モドキということになるだろう(鈴原妹もいるけど、彼女は「妹」であることで、兄-妹という潜在的ペアをつくっているとも言える)。
つまり、一見「2」こそが世界を統御する根本原理であるように見える。そして、様々な場所からはじき出されたシンジは、自分の真の居場所(運命の場所)であるかのようなカヲルとの「ペア」という関係(場)を発見する。シンジはその、自分が発見した「正しい居場所」によって(自分のせいで破壊されてしまった)世界を再生し得ると考える。しかし、シンジとカヲルのペアは、実はゼーレか、あるいはゲンドウによって仕組まれたもので、真のペアとは言えず、関係は破綻する(そして世界も破綻しそうになる)。
この作品でもっともうつくしいペアはなんといってもアスカとマリのペアだろう(この二人はしかし、ミサトとリツコの過去の姿のようでもある)。ぼくは特にマリというキャラがすばらしいと思うのだけど。シンジとカヲルのペアが、(カヲルの「ぼくは君に会うために生まれてきた」とかいう台詞からもみられるように)あらかじめ定められた運命のペア(であるかのような)関係なのに対して、アスカとマリは、おそらく人手不足によって強いられた偶発的ペアであり、気が合うとは思えず、常に互いに罵りあってさえいるが、それでも、繰り返される実戦(実践)を生き延びた実績によって堅く結ばれてもいて、例えばマリはなんだかんだ言いつつアスカを「お姫様」と呼び(軽くバカにしたような呼び方ではあるが)ちゃんと尊重しているし、アスカもマリを頼りにしている(アスカがマリを14年間ずっと「コネメガネ」と呼び続けていたのかと思うと、「時間」というものが感じられてなにかジーンくるものがある)。「エヴァ」の地球は、実質的にはこの二人の働きによって支えられていると言ってもいいと思う(アスカ−マリのペアは、シンジが眠っていた14年という時間の厚みによって結ばれている)。
「Q」のペアは基本的に同性同士であり、だから「Q」は、「2」から「3」へという話であるというより、同性同士のペアによる世界から、ペアが崩れて男女の交錯する世界へ、という流れの話なのかもしれない。
エヴァ」だからやはり、うじうじしたシンジがしっかりした女の子のよって救われるという流れになるわけで、「Q」でも、カヲルくんとのペアが破綻した(「運命のペア」は間違いだった)あと、シンジはアスカとマリによって救われる。ここでもマリは、シンジを「わんこくん」と呼んで(軽くバカにしつつ)気にかけていて、シンジを実質的に救ったのはマリなのに、「泣いた赤鬼」の青鬼のように自分は身を引くのだった(シンジをめぐるアスカとマリの関係は、加持をめぐるミサトとリツコの関係にちょっと似ている気がする)。そして最後には、シンジ、アスカ、レイ(もどき)という「3」に至る。
●一方に、浮き世離れした夢をいつまでも追いかけている男性たち(ゲンドウ・冬月)がいて、もう一方に、現実的な生活を必死で支えている女性たち(ミサト・リツコ、アスカ・マリ)がいて、当初、双方はネルフとして一緒に生活していたのだけど、男性たちのあまりの浮き世離れぶりに我慢できなくなった女性たちがヴィレをつくって別居した。子供であるシンジは、最初は母方(というか、綾波「母」だとすると「姉方」という方が文脈上ではいいのかも)にいたのだけど、お母さん(お姉さん)に冷たくされてふてくされて父方に移る。するとそこに父親の親戚にあたる優しいお兄さん(カヲル)がいて、そこに自分の居場所を見つけたと思ったのだけど、実はそれが父親の策略であることがわかり、途方にくれているシンジくんを、母方(姉方)の女性たちが「ほらシンジ、もっとしゃんとしなさい」とか言って叱咤しつつ救い出して、再び母親(姉)の側に移る感じになる……。「エヴァQ」がそんな話にみえてきた。