●寝る前に頭を休める感じで、ちびちび飲みながら『トータル・リコール』をDVDでぼんやり観ていた。シュワルツェネッガーのやつじゃなくて、最近のコリン・ファレルの方。特に面白い映画ではないし、ほとんどディックとは関係のない話になっていた。
それにしても、ハリウッド映画なのに反米的というか、親テロリスト的(一応、テロリストとレジスタンスは違う、ということになっているけど)な視点からの物語を語っているのをみると、同時多発テロから十年以上たって、アメリカの空気もずいぶんかわってきているのだなと思う。しかし、富裕層と貧困層とが地球の裏と表(イギリスとオーストラリア)に分かれて住んでいて、それが地球の中心を貫く巨大エレベーターみたいな地下交通で結ばれている(そのエレベーターに乗っていると地球のコアの部分で重力反転が起こる!)という設定は、あまりにも単純すぎるように思う。そもそも、富裕層が悪であり、貧困層がその支配、抑圧、搾取からの解放によってハッピーエンドに至るというような単純な物語では、世界中の誰一人として幸せにはなれないんじゃないかと思ってしまうのだけど。
この映画でちょっと面白いのは、アクションの上下軸というか、垂直軸が強調されているところ。化学兵器を使った戦争の影響で地球のほとんどの地域に人が住めなくなっているという設定なので、土地が絶対的に不足していて、建物がやたらと高層化していたり浮遊していたりするから、水平な「地面」というものがほとんど画面に映らなくて、だから、アクションの要素として落下と上昇という高低差の占める重要度がとても大きくなる。ひたすら落ちたり登ったりしている。貧困層の住む地域は「ブレードランナー」的な高層化したアジア都市みたいな設定になっていて、そこでのアクションはジャッキー・チェンの映画のような体を張った感じのもの(ジャッキー・チェン的な落下とか)になっていて、富裕層の住む地域にゆくと滅茶苦茶にハイテク的に高層化しているから、落下と上昇が果てしなくつづくゲーム画面みたいなCGバリバリの感じになる。(レジスタンスの隠れ住む地域になるといきなり、「これが本来の人の住む場所だ」といわんばかりに安定した「地面」があらわれるのにはちょっと引くのだけど)この対比はちょっと面白い。で、その垂直軸のアクションは、クライマックスに至っては地球を貫く究極の垂直運動を行う巨大エレベーター(フォールと呼ばれる地球貫通鉄道?)のなかで行われることになる。これは確かに、理屈としては首尾一貫しているけど、でも、このクライマックスの部分がどうにも面白くなかった。