●『リアル〜完全なる首長竜の日〜』(黒沢清)をDVDで観たのだけど、うーん、ぼくにはなんとも面白くなかった。つまらないのではなく、とても立派な仕事だと思うし、文句をつける気もないけど、面白く「は」ない、という感じ。退屈することもなく、興奮することもなく、一つ一つ段取りを押さえるようなフラットな(分析的な)気持ちで最後まで観てしまった。「萌え」なかったというか、なんで自分は「これ」に興奮できないのだろうと、首をひねったところがいくつもあった。「お前、こういうの好きなはずだろ、シビれるはずだろ」と自分につっこみを何度も入れていた。でも心は動かなかった。例えば、「廃墟」をまったくリアルに感じられなかった。
ただ、最後の方で、綾瀬はるかが(というか、綾瀬はるかに扮したスタントの人だと思うけど)、高い柵を乗り越えようとして、柵からガチ落下した場面(人がドスッと地面に打ちつけられる)だけ、おおっ、黒沢清だ、と思った。ここ(「ここ」に傍点)で「落とす」のか!、と(高さが中途半端だったからこそリアルに「落ちた」感じがした)。
いや、すごくきちっとつくってある映画だと思うけど、それが驚きにつながるというより、「なるほど」という納得に収束してしまう感じだった。それは、基本的にこの「お話」にまったくのれなかったせいなのだと思う。
ある「お話」を語るために、映画に含まれる様々な要素を適切な位置に絶妙に配置してゆくことを「演出」と言うとすれば、演出という意味ではとても端正につくられていて、もしかしたら黒沢清の作品ではもっとも演出が上手くいっていると言えるかもしれないとも思うのだけど(職人に徹している感じ)、そこで語られる「お話」が、ぼくにはどうにも面白いとは思えなかった。
演出を台無しにして、場面、場面をバラバラに切り離して、ある特定の場面だけをピックアップして観るように観れば、おおっ、と思う場面は多くあるのかもしれない。でもこの作品は、そのようには観るなと言っている作品のように感じられた。