●『サカサマのパテマ』をDVDで。すっごく惜しい感じ。なんで今までこういうアニメがなかったのかというくらい、このアイデアはアニメのためにある、アニメというものの力を十分に発揮できて、アニメだからこそ十全に表現できるというようなアイデアだと思う。そして、そのアイデアそのものはすごく上手く表現できていると思う。
でも、それ以外の、周りを固めるみたいなところの「練り」とか「作り込み」がいちいち足りないと思う。つまらない設定、つまらないキャラ、かったるい語り口…。例えば、なんであんなに紋切り型の独裁者が支配する、紋切り型の管理社会や学校を平気で設定してしまうのだろうか、とか。
いや、これは子供も観るような種類のアニメだから、いろいろ分かり易くつくらなければならないというのは分かる。でも例えば、分かり易く紋切り型の管理社会を設定しなければならないとしても、建物のデザインとか風景とか、そこに住む人たちの様子とかに、一つ二つ工夫を付け足してやるだけで、いかにも判で押したみたいなありがちな造形の「管理社会」という感じではなくなると思う。あるいは、分かり易く「悪い独裁者」が支配しているとしても(この独裁者のキャラはあまりにつまらな過ぎる)、その独裁者のキャラにちょっとした工夫で色づけしてやるだけで、安っぽい紋切り型の感じではなくなると思う(宮崎駿とかは、こういうところも上手い)。パテマ側のお爺さんキャラにしても、「ここはオジジ的キャラでしょう」という「お約束」以上のものが感じられない。別にお約束通りでもいいのだけど、お約束通りにするのなら、それでも納得させるくらいの作り込みなり工夫なりが必要だと思う。そういう細部の一つ一つが、全然ダメではないにしろ、どれも「そこそこ」でしかなくて、どこか薄っぺらくて、そこでもう半歩分でも粘って、押すか押さないかで、作品の説得力が全然違うのに……、と思ってしまう。
物語的な部分の語り口にしても、例えば、ラゴスという人物がどんな風になってしまっているかということは、観客も完全に予測できているのに、それを見せるのに妙にもったいぶったタメをつくったりして、そこはパテマのリアクションだけパッと見せれば十分ではないか、と思ってしまう(語りにいまひとつキレがなくて、中盤から終盤はともかく、はじめの方の展開がすごくかったるいと思う)。
とはいえ、この作品の「重力」の表現はすばらしい。映画というメディアは一般に、「高さ」の印象を表現したり、高いところから下を観ているような緊張感を出したりするのがとても難しい。でもこの作品は、アニメならではの表現でそれを実現している。特に中盤から終盤は、観ていてずっと、高いところにいる時のような緊張を感じていた。感情移入としてではなく身体的なレベルで「落下の恐怖」を感じた。落下の恐怖だけでなく浮遊感も感じられるのだけど、その浮遊感も宮崎駿的な反重力的なものと違って、重力を意識することから生まれる(重力と重力とが相殺することで生まれる)浮遊感で、より生々しくて、こういう感じは他ではちょっとないのではないか。上下反転する感覚も、例えば『ゼロ・グラビティ』のような無重力とは違って、あくまで、上下があって、それが食い違う(反転する)という感覚なのが面白い。空間の感覚が(身体的にも、そして頭脳的にも)攪乱される感じは、『ゼロ・グラビティ』よりもすごいのではないかとさえ思う。
そういうところがすごいからこそ、作品を組み立てている細部のひとつひとつが、どれも、もうひと練り、ひと粘り足りない、ありがちな紋切り型で済まされてしまっているというところが、すごく惜しいと感じる。ここまでやっているのになんてもったいないことか、と。