●渋谷で会合。
●今まで食指が動かなくて未見だった『星を追う子ども』(新海誠)をDVDで観たのだけど、予想外に良かった。新海誠が重要な作家であることは間違いないとして、でも、好き嫌いで言えばどうしても好きにはなれなかったのだけど、この作品は好きと言える。
(『君の名は。』は観ていません。)
つっこみどころはたくさんある。あからさまな「なんちゃってジブリ」だし(ジブリに限らず、様々な物語から要素やイメージを節操なく借りてきて切り貼りしている感じ)、そうなると本家と比べてしまうので、キャラクターの動きや表情などの貧弱さが目立ってしまう。
この作品で際立っているのは、やはり描写力だと思う。つまり、世界の切り取り方や見せ方。この一点に関しては宮崎駿を超えていると思う。しかし、この作品以外では、その優れた描写力は男女間のあまりに感傷的で甘ったるすぎる感傷を盛り上げるために奉仕させられている。そしてぼくは、その感傷には乗れない。でも、この作品ではその描写力が、その物語が展開される世界を示すために、あるいは、世界を構築するために使われている。特に、前半の地上世界を表現する描写はすばらしくて、それはキャラクターの貧弱さを補って余りあるものだと思う。
(地下世界の描写はそれに比べるとイマイチと思ったけど。)
それと、この映画で感動するのは、新海誠という作家が努力する作家であることが感じ取れる点だ。その努力に対して尊敬を感じることができた。『ほしのこえ』『秒速5センチメートル』『雲のむこう、約束の場所』ときて、次がこれというのは、すごくリスクの大きいチャレンジだと思う。それまでの三作でファンになった人は、ふつうに考えてこのような映画を望んではいないだろう。『雲のむこう…』をぼくはあまり好きじゃないけど、完成度という点ではすごいものだし、多くのファンの心を掴んだ作品で、『雲のむこう…』をつくった人の作品だからと期待してこの作品を見せられたら、それとはまったく異なる方向なので期待はずれだと感じるかもしれない。でも、このタイミングでこれをやらなければいけない、という感じは分かる気がする。
実際、完全に上手くいっている作品とは思えない。とはいえ、生半可に「こういうのがウケるんでしょ」という感じでジブリ風にしたという感じはなくて、チャレンジとして徹底してやり切ってはいると思う。必ずしも資質に合った方向といえないものを、しかし全力でやり切ったという作品のように感じられる。この作品への驚き大部分は、新海誠がこの方向でここまでやるのかという驚きだ。他の作品ならば決してやらないと思える、アニメの紋切り型の表現(たとえば、ものを食べる時に「はむ」という声を出す、とか)をかなりあからさまに取り入れているのをみても、その覚悟のほどが感じられる。
つまり、(1)新海誠の風景や物の描写は、感傷にではなく世界の表現に奉仕するときにとてもすばらしい、そして、(2)それ以前までのやり方では通用しないような物語の構築を指向し、それをやり切っている、という点で、この作品を好きだと思えた。そして、この作品は新開誠の代名詞ともいえる「過度な感傷」がなくても成り立つようにつくられている。一番の得意技を封印したまま、とにかくここまでやったということがすごいと思う。この作品をここまでやったことは、この作家のその後の展開で効いてくるのではないかと思った。
(とはいえ、この次の『言の葉の庭』はやっぱり苦手なのだが。)