●『スローなブギにしてくれ』(藤田敏八)をDVDでなんとなくだらっと観ていた。時間があるなら、他に観たい映画もあるのだけど、あまり傑作とは言えないであろうと予想される映画を、気を抜いてだらっと観ていたいという時もある。この映画はずいぶん前に(かなりカットされているであろう状態の)テレビ放送で観たおぼえがあるけど、オリジナルははじめて観る。
最初の三十分くらいは、これは意外になかなかいいのではないかと思ったのだけど、途中、浅野温子古尾谷雅人が揉めはじめるあたりから、展開が紋切り型になっていって(浅野と古尾谷が同棲→古尾谷が店長とケンカしてバイトをやめる→仕方なく浅野がバーで働きはじめるが、意外に客商売に向いていて好評化→古尾谷が拗ねて行きずりの年上の女と浮気……)、その後はずっと、ああ、これはこの時代(81年製作)の紋切り型だ、という場面ばかりがつづくようになった。なんというか、「これは昭和の男流文学だなあ」という感じ。ただ、山崎努のウザいおっさんっぷりは、さすがに大したものだと思った(裸サスペンダーとか白いブリーフとか、なかなかだった)。室田日出男ののっぺり感もよかった。良くも悪くも、きわめておっさん臭い映画。
(おそらく、紋切り型というのは古くなることではっきり分かるようになる。同時代的には、これは「新しい感覚」と感じられたかもしれない。同じ原作、同じキャスティングだったとして、例えば神代辰巳とか相米慎二が撮ったら、きっとこんなには「昭和の男流文学」にならなかっただろう。でも、同時代的には、そっちの方が古臭く感じられたかもしれない。)
序盤がよかったのは、風景映画としてよかったのだと思う。昭和の郊外の風景が、とても魅力的捉えられていた。それが、人間たちのドラマに寄っていくと、途端に(風景さえも)紋切り型になっていく。
山崎努ムスタングのなかに、浅野温子が財布を忘れていって、それを返すという名目で二人が青梅線のどこかの駅前で再会する場面で、二人はかき氷を食べているのだけど、ここで二人とも尋常ではない勢いで汗をかいている。浅野温子は首筋から鎖骨のあたりに汗がだらだら流れているし、山崎努は顔から汗が噴き出している。意識的にやっているのか、それとも、現場が汗だくになるほど暑かったのを事後的に利用したのかは分からないけど、こういう汗のかき方を映画であまり観たことがない感じで面白かった。それで、『東京のバスガール』(堀禎一)を思い出した。この映画も、絡みの場面がやたら汗だくだった。