2021-05-05

●『大豆田とわ子と三人の元夫』、第四話。こんな展開あるのか、という驚きの回。市川実日子は、誘拐される人であると同時に誘拐する人でもあった、と。また、今回はじめて松たか子の「労働」が描かれなかった。

今回の中心にいるのは市川実日子だと言えるが、松田龍平を媒介とすることによって市川実日子石橋静河とが対比的に示されるとも言えるし、三人の元夫のなかでの松田龍平の特異性が露わになるとも言えるので、松田龍平回であるとも言える。元夫たちのなかで松田龍平のみが松たか子に対する執着をもっていないように見えたのは、松田にとっての執着は松たか子ではなく市川実日子にあったから、ということになる。

ジャンケンのルールが分からないという市川実日子に対して、石橋静河囲碁のルールを一瞬で理解する。この点からも二人がこのドラマのなかで対比的に配置されているのは明らかだろう。石橋静河はすばやくルールを把握し、勝ち負けのゲームのなかで戦略的に勝ちにいく。市川実日子はルールが把握できないからこそ、勝ち負けのゲームとは異なる基準で動くことができる(異なる基準でしか動けない)。石橋静河が、松田龍平にとっては親友の彼女であるという「関係性の問題」は、実はそれほど重要ではなく、市川との対照性こそがドラマの構造上では重要だと思われる。

(ここで、勝ち負けのゲームを象徴するものとして「恋愛」があり、故に石橋は恋愛に積極的であり、市川にとってそれは困難であり邪魔であるようなものとなる。)

松田龍平ナチュラルに女性にモテる人であること、また、そうであるにもかかわらず男女の関係を避けようとする人であるということは、第一話で既に示されていた。また、松田龍平松たか子に対して執着をもっていなさそうだということも、一話で示されていた。だが、これらの特徴か松田龍平がもともと持っていた性質というより、市川実日子との関係によって、そのように振る舞うようになったのだ(なったのであろう)ということが、今回、新たに示された。松田龍平は、恋愛を受け入れない人のことが好きだから、自らもまた恋愛を放棄する。

(一話で松たか子が、四話で石橋静河が、松田龍平のマンションで流しの下の物入れに隠れる。二人が同じ位置を占める。つまり、この物入れに隠れる女性は松田龍平にとって「本命」ではない、ということになる。)

浜田信也にデートに誘われた市川実日子を、松たか子がドレスアップさせる場面で、着飾った自分の顔を鏡で見た市川は「母さんそっくり」と言う。市川は、(おそらく)虐待されている子供を救うために誘拐を行い、多額な祖母の遺産をそっくり「児童施設」に寄付する。彼女の破天荒な行動は基本的に「家族に恵まれない子供を救う」という方向性をもっている。これは彼女自身の境遇から来ているように思われる(だが市川は、自分のアイデンティティをそこに求められることを強く拒否する)。

三回結婚して三回離婚している(四十人の社員に対して責任をもつ社長である)松たか子と、恋愛という関係性を受け入れない(会社という組織に属することを拒否する)市川実日子ともまた、対比的な関係にあると言える。ここで市川の「サイパンに住んでる人がグアムに旅行に行く?」というセリフが思い出される。浜田信也と自分が似ていてとても気が合うが、付き合うことには消極的であるということの表現だが、これはそのまま、松たか子市川実日子とが基本的に異質な存在であるからこそ、二人の関係が三十年にも及ぶのだということの表現でもあるだろう。

●二人の子役の選び方、およびその衣装がすばらしい。演出とはこういうことなのだなあと思う。そして、横断歩道を渡れない市川実日子に付き添って横断歩道を渡る松たか子。二人の関係をこれだけのことで表現するのがすごい。

市川実日子が「最後の晩餐」と言っていたコロッケを買っている場面で少し嫌な予感が漂うのだが、そこに松田龍平がやってきてコロッケが彼にも与えられる(コロッケがシェアされる)ことで、少しホッとする。