2021-06-27

●確率の雲は、相互作用によってのみ、そして、その作用の相手に対してのみ「具体化」する。『時間は存在しない』、第五章「時間の最小単位」より引用。

(こういうことが「常識」になることで、社会は変わるのではないかと思う。この本にも書かれているが、ニュートン物理学が学校教育を通じて広く行き渡ったことが、我々の時間や空間にかんする「常識」や「直観」の多くの部分を形作っている。我々の常識の多くは---それと知らないまま---過去の哲学者や科学者が考えたことに依っている。)

量子力学は、物理的な変数が粒状であること(粒状性)と〔ゆらぎや重ね合わせにより〕不確定であること(不確定性)とほかとの関係に依存すること(関係性)、この三つの基本的な発見をもたらした。》

《(…)「量子」とは基本的な粒のことであって、あらゆる現象に「最小の規模」が存在する。重力場における最小規模は「プランク・スケール」、最小の時間は「プランク時間」と呼ばれていて、相対性や重力や量子が絡む現象の特徴となっているさまざまな定数を組み合わせれば、その値を簡単に計算できる。》

《言葉を変えれば、時間には最小単位が存在する。その値に満たないところでは、時間の概念は存在しない。もっとも基本的な意味での「時」すら存在しないのだ。》

プランク時間の空間における姉妹がプランク長で、この最小限の長さより短いところでは、長さの概念が意味をなさなくなる。》

量子力学の二つ目の発見は、不確かさである。たとえば、ある電子が明日どこに現れるかを正確に予測することはできない。電子がどこかに現れる瞬間と別のところに現れる瞬間の間には、電子の正確な位置は存在しない。まるで、確率の雲のなかに散っているようで、物理学者の業界用語では、これを位置の「重ね合わせ」状態にあるという。》

《時空も、電子のような物理現象である。そしてやはり揺らぐ。さらに、異なる配置が「重ね合わさった」状態にもなり得る。》

《このため現在と過去と未来の区別までが、揺れ動いて不確かになる。一つの粒子が空間に確率的に散って不確かになるように、過去と未来の違いも揺れ動くのだ。したがって、ある出来事がほかの出来事の前でありながら後ろでもあり得る。》

《「揺らぎ」があるからといって、起きることがまったく定まらないわけではなく、ある瞬間に限って、予測不能な形で定まる。その量がほかの何かと相互作用することによって、不確かさが解消されるのだ。》

《ところがこのような電子の具体化には奇妙な性質がある。問題の電子は、相互作用している物理的な対象に対してのみ具体的な存在になる。ほかのすべての対象に関しては、この相互作用によって不確かさが伝播し広がるだけなのだ。具体性は、ある物理系との関係においてのみ生じる。思うに、これは量子力学がなし遂げたもっとも劇的な発見といえよう。》

《電子が何かに---たとえば陰極端子が組み込まれた古いテレビ画面---にぶつかると、電子に付随しているとされる確率の雲が「崩れ」、スクリーンのどこかに電子が現れて、テレビ画像を構成する明るい点を生み出す。だがこの具体化はスクリーンとの関係に限られていて、ほかの対象との関係では、電子とスクリーンが一体となって配置の重ね合わせ状態になる。そしてこれがまた別の対象と相互作用した瞬間に、共通の確率の雲が「崩れて」具体的な配置が現れる……、といった具合なのだ。》

《電子がここまで奇妙に振る舞うという見方を受け入れるのは、ひじょうに難しい。そのうえ時間や空間までが同じように振る舞うという考え方を咀嚼するのは、さらに難しい。》

《時間の持続と隔たりを定める物理的な基層、すなわち重力場に、質量に影響される力学があるだけではない。それは、何かほかのものと相互作用しない限り値が決まらない量子実体でもある。相互作用が起きると持続時間は粒状になり、相互作用した相手との関わりにおいてのみその値が決まる。それでいて、宇宙のそのほかすべてに対しては、不確かなままなのだ。》

《時間は関係のネットワークのなかに溶け去り、もはや首尾一貫したキャンバスを織り上げてはいない。》