2021-10-06

●『ロル・V・シュタインの歓喜』(マルグリット・デュラス)における、三人の主要な登場人物たち(ロル、ジャック、タチアナ)の力関係の構造について考えて、図にしてみた。

小説の全体の構図は下のようになっている。

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まずは、三人の力の及ぶ範囲を示した図。ロルは、自らの欲望の遠近法の内部で、ジャックとタチアナの関係を操作することができる。ジャックは、ロルの奇妙な欲望の遠近法を外からの描写(記述)によって顕在化できる(全体の語り手)。タチアナは、この物語の起源となる「T・ビーチの事件」を外からの描写(記述)によって顕在化できる唯一の人物である。

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次に個別に、その受動性と能動性をみてみる。まずはタチアナ。タチアナは、ロルの欲望の遠近法のなかでロルとジャックに利用される(受動)。しかし、それなしでは物語が成立しない起源である「T・ビーチの事件」におけるロルについて、外から描写(記述)する唯一の権利をもつ(能動)。

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次にジャック。ジャックは、ロルの遠近法の内部で役割りを演じさせられ、利用される(受動)。しかし同時に、自分がその内部にあるロルの遠近法を、外から描写(記述)する権利をももっている(小説の語り手である)。

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そしてロル。ロルは、自らの遠近法の内部でジャックとタチアナを操作し利用する主体である(能動)。しかし、T・ビーチの事件についてはタチアナから、遠近法の構造についてはジャックから、描写(記述)される対象である(受動)。また、最初の事件はアクシデントであり、制御不能であった(受動)。

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このように、どの人物も完全に能動的(主体)でもなく、完全に受動的(対象)でもなく、その有り様もそれぞれ異なる(すべての人物が、メタレベルとオブジェクトレベルの両方に同時に---異なるあり方で---位置している)。そしてこの能動と受動の組成の違いが、それぞれの人物の欲望のあり方の違いをあらわしてもいるだろう。