2022/09/29

●改めて思うのは、『初恋の悪魔』で、林遣都=鹿浜鈴之介の家のリビングに45度の回転が含まれていることがいかに重要であったか、ということだ。

 

空間に45度の回転が含まれることで、壁に並行して置かれる物入れの棚や、逆の壁に配置されるソファーに対して、主な舞台となるテーブルの向きが45度ズレる事になる。このことによって生まれる空間の軸線の複数化と膨らみが、この場で行われる芝居や人物の動きに豊かなバリエーションとニュアンスを付加する。

そして、この「軸線の複数化」という事態が、このドラマのテーマである、相容れないものが交わらないまま(乖離したまま)同居する、ということとも深く関わる。空間そのものに既に、軸線が二つある。つまり、二つの異なる空間が同居している。壁とキッチンへの出入り口を基準とした軸線(による空間)と、玄関からの出入り口・テーブル・窓の配置、を基準とした軸線(による空間)。俳優たちは、この二つの軸線(空間)を行き来しながら演技をする。だが、カメラが捉える(切り取る)のは二次元の平面なので、この軸線のズレを容易には見分けられない。

そもそも、この空間に45度の回転が含まれていることを発見することは、そんなに容易ではない。観る者はまず、このリビングを普通に四角い空間だと思い、テーブルも壁に平行して置かれていると思いながら観る。しかし、しばらく観ていると、玄関側の入り口から見て、テーブルの左側や右奥、そしてテーブルからキッチンへ至る空間に、不思議な膨らみやニュアンスがあることに気付いて、この部屋は単純な四角形ではないのではないかと気づく。

つまり、単純に四角い部屋だと思っていた場所に、もう一つ別の空間のありようが潜在しているのに気づく。このドラマの主な舞台であるリビングの空間にも、このドラマの主題が宿っている。