●南青山のプリズミック・ギャラリーで柄沢祐輔展を観た。
http://www.prismic.co.jp/gallery/works44/index.html
<s-house>については、一昨年の冬にはじめて中沢読書会に参加した時から話を聞いていたし、CGによる完成予想図も見せてもらったりしていて、だいたいこんな感じだろうというイメージはあったのだけど、でもそれが実際に三次元空間でどう成立するのかよく分かってなかった。模型を見てようやく、ああ、こういうことなのかと思った。
<villa kanousan>では、回転する立方体の形に従って壁に穴(空隙)が開けられていて、だから様々な角度の「斜め」があるのだけど、<s-house>では「斜め」の角度はおそらくどれも一様(違っていたとしてもそれほど「違い」は強調されていない)で、多様性よりむしろ反復性が強調されるような感じで、印象が違うのかと思っていたのだけど、思いのほか、<villa kanousan>と共通する感じだった(と言っても、<villa kanousan>も写真でしか知らないけど)。反復が感じられる以上に、視覚的に複雑で、ずっと観ていても飽きない感じ下のリンクは<villa kanousan>の写真。
http://yuusukekarasawa.com/works/2010/03/villa_kanousan.php
<s-house>は、ざっくり言えば、階段と踊り場しかない家という感じで、階段+踊りの組み合わせで出来た二階+屋上というワンセットの建物が、半階ずつずれて二つ重ねられている(「1階、2階、屋上」+「半地下、1.5階、2.5階、屋上」)状態。家全体が半階ずつずれた二つの部分に切り分けられてあって、そのそれぞれが中央の階段によって、さらに(実部と虚部との)二つに分けられているから、互いに反転し合う二人組が、二組、半分ずれて重なっている感じ。基本構造が二×二であることと、実部と虚部とが同等に扱われているという点が<villa kanousan>と共通していると思った。ただ、<s-house>には壁がほとんどなくて、実部と言っても、そのほとんどが階段=階段の裏側、天井=床ということで、実と虚の同等性=反転可能性はより徹底しているように思われた。<villa kanousan>でも、壁に空隙が切ってあるのか、空隙を形づくるために壁があるのか(どちら主でどちらが従か)分からない感じに見えるけど、<s-house>だと、構造がそのまま外観(形)であり、しかしそれは「構造を見せる」のではなく、その外観が、そのまま実と虚との同等性をみせるような練られた「形」になっている(形を見せるために構造があるのではなく、構造と形が一致している)。
<s-house>では、基本の単位が二であっても、単位が重なりながらずれていってるから、「二(1+1)」という単位で収束せずに、(1+「1)+≪1」+{1≫+1}という感じで、無限に発展してゆく感覚が生じる。つまり、まず(1+1)がワンセットとなってある一つの感覚可能なリズムを生み、その要素の半分が次の「1+1」へとずれてゆき、さらにまた、その片割れが次の≪1+1≫へとずれてゆく。そしておそく、この「連結した二(1+1)という組がずれ込んでゆくことでどんどん増殖してゆく」感覚が、家のどの場所にいても感じられるというようになっているのだろう。
壁がほとんどなくて、家のどこからでも他の多くの場所が見渡せ、空間の連続性が感じられるのと同時に、それぞれの空間の独立性も感じられるのは、高さによって分けられている(半地下、1階、1.5階、2階、2.5階、屋上の六層)こともあると思うけど、それぞれのスペースを繋ぐ経路の複雑さもあると思われた。例えば、屋上は二つのスペースに分けられているけど、その一方から、すぐ先に見えている他方へと移動しようとすると、屋上からいったん、2.5階、2階、1.5階へと降りてから、二つの部分を結ぶ(もう一方のユニットへ繋がる)2階への階段を上り、また、2.5階、屋上、という経路を通らないと行けないつくりになっていた(模型のまわりをぐるぐる回りながら目で追っていったのでたぶん間違いないと思う)。すぐ目の前に移動するために、様々な空間を、登ったり降りたりしながら通過しなければならない(いや、手すりを乗り越えてジャンプすればすぐかもしれないけど)。見晴らしの良さ(視覚的な透明性――構造そのものがそのまま形態になっているということも含めて)と迷宮性(行為的な複雑性)とが重ね合わせられている。モダニズムバロックがスマートに融合しているというような。パッと見はすごくシンプルに見えるのだけど、じっくり見ているとどんどん複雑になってゆくというか、頭がクラクラしてくる。
●建築模型を見ているというより、絵を観てるみたいに面白かった。あと、どう見ても本棚を置く場所がないように思われたのだけど、どうするのだろうか。こんな家に住もうとするなんて、究極の道楽だなあとも思った。
●以下は、前にUSTで柄沢さんのレクチャーを聞いた時の日記。
http://d.hatena.ne.jp/furuyatoshihiro/20120512