2022/11/18

●「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」、プライムビデオで観られる36話まで観た。面白くなくはないが、最初の頃に比べるとちょっとテンションが下がってきた感じか。とにかく、ほとんど常に「おお、そうくるのか…」という予想外の展開がなされるので、その意味ではとても楽しく観られるのだが、中盤以降、芯となるものが見失われたというか、ただひたすら「予想外の展開」だけを追求しているようにも見えてしまう。それと、「展開」は予想外だが、一つ一つのパーツというか、構成要素のレベルではけっこう紋切り型で、それも、ちょっと古い感じの紋切り型という感じがやや気になる。

一年通してのシリーズだから、おそらく50話くらい作られるのだろう。中盤ではとにかく遊ぶだけ遊んでいたが、そろそろ物語の本線が動き出したという気配はある。お話が最後まで行った時に、中盤でややダレた感じに見えたところが、実は構造上で重要な部分だったということが見えてくることもあるかもしれない。

「ドンブラザーズ」では怪物(ヒトツ鬼)は重要ではない。ちょっと迷惑な人くらいで、ヒーローは迷惑処理係みたいな感じだ。当初、ヒーローが怪物をやっつけると怪物は人に戻るが、脳人がやっつけると消えてしまうという対立があったが、途中から、脳人が怪物を倒すことがほぼ無くなったので、この対立構図は消えた。それよりも、ドン家の末裔であるというタロウと脳人たちという「親の仇」みたいな対立がメインになってくる。この場合、対立するのはあくまでタロウと脳人であり、戦隊の他のメンバーはあまり関係なくなる。そして、タロウと脳人たちの対立には和解の余地がある。

(脳人から、脳人とヒーローとの共闘が提案されることもあった。)

おそらく最も重要な対立はメンバー内に埋め込まれている。戦隊メンバーには、タロウの他に、鬼、猿、雉、犬にあたる人がいて、さらにもう一人、虎+龍に当たる人がいる。ここで雉と犬が一人の女性を巡って対立する。雉の現在の妻は、一年前に消えた犬の元恋人だが、この女性は、雉の妻と犬の恋人という二つの人格・記憶を持つ。さらに雉は、妻を強く愛して(依存して)おり、過去に二回も嫉妬によって怪物化している。この対立(雉の妻と犬の元恋人が同一人物であること)は、観客に対しては顕在化されていたが、登場人物に対しては隠されていた(犬は少し前から勘づいていたが、雉に対しては34話で明かされた)。この対立は基本的に解消不可能であり、この物語がこの対立にどのような決着をつけるのかはとても重要なポイントとなるはず。

(また、強くヒーロー=リーダーに憧れ、タロウに取って代わろうとしている「虎+龍(の龍部分)」という別のヒーロー内対立もある。)

そしてこの女性は、人とも怪物とも脳人とも違う、獣人というカテゴリーにある存在だ。脳人は、イデオンという、この世界と重なっている別次元に住む人たちのことだが、獣人はその脳人の一部(ドン家)が作った「失敗した人工生命」であり、封印されていたはずが人間の世界に出てきてしまったという設定だ。獣人は、人をさらって眠らせ、その人のコピーとなって人間社会に入り込む。つまり、犬の元恋人は、一年前に獣人にさらわれて眠らされており、そのコピーとなって人間界に現れた獣人の女性が、雉と結婚したのだった(だから、厳密には同一人物ではないのだが)。獣人には、ペンギン、鶴、猫という三つのタイプがあり、猫は気ままで凶暴、鶴は物語を紡ぎ(雉の妻は鶴であり、「雉の妻」という現実(犬の恋人)とは別の物語を生きる)、ペンギンはまだ登場していない。獣人は、アノーニという、人間界に紛れ込んだ非人間的存在で、怪物が現れるとなぜか怪物に加勢するが基本的には無害の存在を食べる。そして獣人は「不可殺」であるとされる。

これに、ドンムラサメという、脳人によって、戦いに特化した兵器として作られた人工生命が加わる、というのが、「ドンブラザーズ」の、今の所見えているざっとした構図だ。これをみても、怪物を倒すことはほとんど重要ではなく、脳人と(脳人に属するが滅ぼされた)ドン家の末裔タロウとの関係、そして、一人の女性を巡るヒーロー内対立、「獣人」という存在を人と脳人からなる「この世界」のなかでどう位置づけるのか、といったことが大きな問題としてあることが分かる。また、対立構図が弱まった中で、脳人たちとヒーローたちとの「戦い以外の場での交流」も、この物語の重要な要素となる。ここで、怪物だけでなく、「ヒーローたちの存在のありよう」に関する興味が、話の中心から外れてきてしまっていることがやや気になってくる。

タロウも、脳人のリーダーのソノイも、死んでも復活可能であるので(タロウの場合は瀕死からの復活だが)、二人の決闘はシリアスなものではなく、また、タロウ(ヒーロー)と脳人の対立が十分に和解可能であることを考えれば、この物語の「深刻な問題」は、女性を巡るヒーロー内対立と、「獣人」という存在をどう処理するのか(再び封印するのか・共存可能なのか・それとも殲滅させてしまうのか)ということくらいかもしれない。