●『アフター・ヤン』(コゴナダ)をU-NEXTで。うーん、これどうなんだろうか。ひたすら美しいが、美しいだけという感じでもある。ここまで美しければそれはそれで立派なものだとは思うが、途中で一つは何かがあるのだろうと思っていたら、ほぼ、何もないまま、本当に美しいだけで終わった。
いや、この「静謐な美しさ」はそれだけでもなかなかすごいものではあるので、そこをあまり軽くみるのはよくないと思うのだけど、AIとクローンの話として、あるいは「家族」の話として、もうちょっと何かがあって欲しいと思わずにはいられなかった。
隣に住むクセの強い親父が唯一の面白いキャラで、主人公のコリン・ファレルは彼を嫌っているのだが、親父の方はコリン・ファレルに何かと親切にしている(隣の親父を嫌っているというところにコリン・ファレルの性格の狭量さが出ていて、どこまでも美しいだけのこの映画にちょっとした陰影を与えてもいる)。コリン・ファレルが隣の親父を訪ねる場面で、その(クローンの)娘がコリン・ファレルに「あなたクローン嫌いでしょ」とつっけんどんに言うと、親父が「直球を投げるな」と嗜める場面はとても良いと思った(クローン三人娘の佇まいも、この映画の美しさにちょっとそぐわない感じで良かった)。こういう、ざらっとした面白さのある場面はここだけだった。
(物言わぬ謎の存在としてのAIの役にアジア人を当てるというキャスティングは、コゴナダ自身がアジア系でなかったら、紋切り型の助長として批判されるかもしれないとも感じた。一応、AIが中国人の見た目を持つことに物語上の必然性はあるが。)
いきなり、スタンダードサイズの小津的な切り返しカットがあって、一瞬、何これ、と思うのだが、これがテレビ電話的な通信の場面を表しているというアイデアは、ちょっと面白い(ラーメンの場面、良かった)。
『コロンバス』は、もっといろいろな要素があって面白かったのだが、コゴナダ監督には、あまりこっちの方向へは行ってほしくないなあと思ってしまった。