2023/08/21

⚫︎だいたい元気になったとはいえ、まだ気力は今ひとつなので、軽く観られるものを観ようと、U-NEXTで「ファミリーヒストリー 草刈正雄」を観たのだが、なんというか、すごく微妙な気持ちになってしまった。

⚫︎まず、「戦後史」だなあという感じ。バブル期でさえかなり遠くになったように感じられる現在もなお、生々しく戦後史を生きた人がバリバリ現役で活躍しているのか、と。「現在」というものの中に含まれた時間の厚みを感じる。

⚫︎それはともかく、これは草刈正雄にとっては相当キツい結果ではないか。普通に、父親に捨てられたということだし、父親は、自分と母親の存在を家族にすら告げることなく、無かったことにして、その後ものうのうと生きていたことになる(母が「父は朝鮮戦争で死んだ」と嘘をついていたのは、息子に「父から捨てられた」という思いを抱かせたくなかったからだろう)。草刈正雄は父親に対して怒って当然だと思うが、一方で、母親は父親のことを決して悪く言うことがなかったという事実があり、自分がモデルとして活躍し始めた頃にも「あんたなんてお父さんには敵わない」と言ったりしていて、父親に対する好意をずっと持っていたとすれば(母こそが最も怒っていいはずなのだが)、父に対して怒りを感じることそのものが、母への(「母の父への思い」への)裏切りみたいな感じになってしまう。父に対する感情の落とし所がわからなくなる。それは、うーん、となって沈黙するしかないだろうと思う。

(裏切り者であるはずの父へ、ずっと好意を持ち続けること―父親と過ごした時間を肯定すること―そのものが、厳しい生活の中での母の支えだったのだろうと推測されるから。)

(父は「いい人」だけど「ヘタレ」だったから家族に言い出せなかったのだろう、南部で、軍人の多い家系で、日本人女性が差別されずにうまくやっていけるとは思えなかったのではないか、と、父の側から父の行為を正当化するとすれば、これくらいか…。)

この番組で語られる話は、父親側の家族にとっては「いい話」であっても、草刈正雄と母の側にとっては特に「いい話」ではない。番組の最後で草刈正雄が父親側の家族に会いにいくが、草刈正雄からしたら「お前らこそが母の墓参りに来いよ、どんだけ母が苦労したと思ってんだよ」という気持ちもあるだろうが、父はすでに亡く、父の姉である97歳のお婆さんにそれを言っても仕方ないから、あくまでも「お婆さん(父の姉)の一生に悔いを残させない」ためのサービスとしてアメリカに渡る、ということだろうと思う。成功した芸能人としての余裕と社交性が、このような冷静で紳士的な振る舞いを可能にさせるのだろうし、目の前に涙を流して感激するお婆さんがいれば、それは当然、感情を動かされもするだろうが、他方で、お前らの一家の物語(文脈)に一方的に取り込むなよという気持ちもあるはずで、内心は複雑なのではないかと思う。

草刈正雄としては「事実を知ることができてスッキリ」とはどうしたってならないだろうと思う(母は、実家からも父からも「切られた」ということになるし)。家に二人の写真を飾って、あなたたち(父方の家族)はそれでスッキリかも知れないけどさあ…、と。テレビ番組だから「いい話」風にまとめるしかないのだろうが、うーん、うーん、うーん、という感じだった。

⚫︎興味を惹かれたのが、草刈正雄の祖父にあたるという人物だった。九人兄弟で、他の八人が全員軍人になったという家庭環境で、一人だけ軍人にならず郵便配達夫になったという。軍人が多い家系で生まれた、軍人には向かない子供。これだけで気になる。ちょっと『サクリファイス』の郵便配達のおっちゃんを思い出したりする。