02/01/24

●夕方の川原は暗い。街灯もまばらな川原は、光を吸収してしまうみたいに暗くて、光を反射している川の水面だけがぼうっと明るい。空はまだ明るさが残っているし、遠くの灯りや、対岸を走っている車のライトなどは眩しい程なのだけど、自分の身の回りはぼんやりとしか物が見えない薄い闇に満たされている。張りつめていたものが解けてゆくような夕方の空気。薄い闇のなかに、人の気配が薄く散らばっている。学校帰りの学生の集団、犬を散歩させている人、ジョキングしている人。闇のなかに地を這うようにハアハアいう息遣いが感じられ、ぼんやりと輪郭の定まらない白い塊が見え始めたら、もう既に犬と数メートルという距離だ。つづいて、モコモコした厚手のジャンバーの腕と脇が擦れる音とともに、飼い主が姿をあらわして、擦れ違う。無灯火の自転車は、カラカラカラというチェーンの音とともに、いきなりあらわれ、見る間にササッと擦れ違って消える。学校帰りの学生たちの集団は、騒いでいるという程の大きな声をあげている訳ではないのだが、軽い「躁」の塊のような気配が離れた場所からも感じられる。橋のあたりで何人か集まっているらしい。川沿いにある中学の校舎の、2階部分の灯りが全部つけてあって(廊下に貼ってある掲示物やロッカーなどがくっきりと見える)、その前の道だけ明るい。照明設備のあるグランドの土が、照明で浮き上がるように青白く照らし出されている。対岸をバスがはしってゆく。最近のバスは、窓が大きくつくられているためか、暗いところで見ると、灯りに照らされた内部が外へと飛び出してきそうな感じに見える。しかし、薄い闇に満たされている川原でひときわ強い光を放っているのは自動販売機だろう。なぜここまで明るくしなければならないのかと思うほどの不自然に強い白色光は、人を招き寄せると言うよりむしろ寄せつけないためであるかのようにさえ見える。シャッ、シャッ、シャッ、シャッ、と服の擦れる音をリズミカルにたてながら、ジョキングのランナーが追いこしてゆく。遠くから犬の遠吠えのような消防車のサイレンが響いてくる。時おりどこからか、夕食の炒め物などの匂いが漂ってくる。短い時間の間に、空から光が急速に失われてゆく。川は、一定の間隔で階段状の段差がつくられていて、段差がある場所では滝のように流れ落ちる水の音が大きく聞こえる。段差から零れ落ちる直前の水は、まるで流れてなどいないように静かに溜まっていて、周囲の光を反射しているせいでか、過剰な表面張力で盛り上がっているようにも見える。建築中の背の高いビルが、照明で照らされていて、まだ工事がつづいけられている。空高くまで延びた2本のクレーンに視線を導かれて視界を上へと振り上げると、意外なほどの明るさで月が照っていた。