07/10/23

●今出ている「文藝」に載っている、文藝賞になった「肝心の子供」(磯崎憲一郎)という小説が凄い。とにかく凄く面白い。今、日本で書かれているあらゆる小説とほとんど無関係にぶっとんでいるという意味で、圧倒的に飛び抜けている。今、これを読まない手はないと思う。というか、ことさら「今」読まなければその魅力が目減りしてしまうような小説ではなく、おそらく五年後に読んでも、二十年後に読んでも、びくともせずに面白いと思われるので、そうそうあせって読む必要もないのかもしれないけど。
多くの人は、ボルヘスという名前を想起するかも知れない。しかし、ボルヘスはもっと「意味」へと収斂される度合いが高いが、この小説は徹底して尻尾を掴ませない、固定した意味からすり抜ける動きがある。尻尾を掴ませないにもかかわらず、なにかやたらと具体的な感触もある。そしてその動きこそが、時間の進行と「死」のリアルな手触りを示す。
●おそらく、ぼくはこの小説を書いた人と一度だけお会いした事がある。(たぶんあの人で間違いないと思う。)それも、荒川修作がつくった住宅で。小説を書いている人だということは知っていたけど、こんな凄いものを書く人だったとは。