●『殺人の追憶』(ポン・ジュノ)をDVDで。薦められて、ポン・ジュノをはじめて観た。何というか、変な映画で、一本の映画としての統一した印象がない。いろんな映画のいろんな要素やテクニックを、ほとんど脈絡なく継ぎ合わせて出来ているような感じ。しかも要素がやたらと多い。そして、タメが長い。ごった煮なんだけど、味が絡んでなくて、一口ごとに味が違う、というか。基本的に俳優は、タメとミエの演技で、演技だけでなくカットのタメも長い。で、必然的に、説明的な感じになるのだが、しかしテレビドラマみたいにそれをベタでやるのではなく、けっこう格好良く撮っている感じもあるので、そのチグハグさも妙なのだ。
田舎の刑事のコンビと、都会の刑事の対立の描写は、どうみてもコメディとして思えないのだけど、何か「笑う空気」じゃない。都会の刑事は登場シーンでいきなり田舎の刑事に飛び蹴りくらわされてて、「とび蹴りって」とツッコミを入れつつ「笑うところ」のはずなんだけど、そんな感じでもない。あと例えば、犯人が写っているカットが一つだけあるのだけど(暗くて誰だかわからないけど)、犯人が襲いかかる呼吸もふくめて、その辺りだけいきなりホラーの調子になる。あるいは、最後の方で刑事の奥さんが襲われそうな雰囲気を盛り上げておいて、それをすっと外して実は後ろから来た女学生が襲われるという一連のシーンも、そんなサスペンスのテクニックがここで必要なの?、という感じ。さらに、ほとんどラスト近くで、刑事の相棒が足を切断しなければならなくなるというエピソードがあるのだけど、え、なんでここにそのエピソード?、みたいな。さらに、やっと目撃者を見つけて、目撃者に犯人を写真を見せて、さあどうなるかという時、目撃者はいきなりわけのわからないことを言い出すのだけど、そんな強引な期待の外し方があるのか!、みたいな。(最後の容疑者が、あまりに「いかにも」な感じで登場することも含め、観客の感情-期待のもっていき方が強引すぎる。)時代背景を示す描写も、どこか取ってつけたような感じだし。で、ラストは唐突に芸術っぽくなって余韻をもたせるって...。目の前のシーンがチカチカと移り変わって流れてゆくので、時間が積み重なってゆく感じがあまりない。(犯行が反復されるので、長編としての「流れ(リズム)」はあるのだが。)
とはいえ、たんに退屈させないために要素をたくさんつめこんだガチャガチャしただけの映画というわけでもない。最初の死体がある場所のアイデアは素晴らしいと思うし、二つめの殺人で、殺人事件に慣れてない田舎の警察が現場を仕切れなくて、死体が横たわってるそばを子供たちが走り回っていたり、犯人の足跡を耕耘機が通って消してしまったりするシーンも面白い。階段を下った地下にある取調室(というより、あれは完全に拷問室だけど)の空間も面白い。階段の真ん中辺りに小窓があって、田舎の刑事のコンビの拷問を都会の刑事がそこから冷ややかに眺めている(しかし、なぜ止めないのか)のも面白い。容疑者に蹴りをいれる時、傷が残らないように厚いカバーを靴に被せるという細部や、取調中に、おっちゃんが階段を下って取調室の暖房に火を入れにくる描写も面白い。犯行現場でマスターベーションしていた男を追いかけているうちに、へんな石切り場みたいなところにたどり着く場面も面白い。刑事が女学生を訪ねて学校を訪れた時、その女学生が刑事と二人でいる自分に対する他の女の子の視線を常に意識している感じとか、芸が細かい。(その後の絆創膏はいかにも「伏線」という感じだけど。)それに、刑事の奥さんがハードに働く夫を呼び出して、湖のほとりみたいな場所で「屋外点滴」するシーンはとても好きだ。あと、何度も繰り返される、雨と空襲訓練の雰囲気も割と好きだ。最後の方にゆくに従って、刑事たちの疲労と焦燥が濃くなってゆく感じも、ちょっとクサイけど良い。ただ、全体的な傾向として、「余韻」を引っ張ろうとし過ぎている感じが、描写の切れを悪くしているようにも感じた。
統一した印象がないので、感想を書こうとすると、こうやって細部を書き並べることになる。(統一感のなさは、登場人物が「どういう奴」なのかよく分らないところからくるのかも。)これ一本だけでは、ポン・ジュノがどんな監督なのか、ちょっと掴めない感じだ。