●頭がどんよりしてきたら、短い時間眠る。淀んだ頭で仕事をつづけてもろくなことはないから。制作中でも、絵の具だらけのアトリエの床に横になって、筆を拭く時に使うキッチンペーパーのロールを枕がわりにして寝る。今日の短い昼寝では夢を見た。自分が住んでいる部屋の、今、自分が寝ている場所で、寝ている夢。ただ、寝ているのは昼間だが夢では夜だった。夢のなかで寝ている自分もなにか夢をみているようだった。目が覚めるとずいぶん冷えているのを感じた。外は雨だった。
●夕方には雨はあがった。五時過ぎ、喫茶店へ向かう途中、駅の南口の階段の下で壁に寄りかかりながらアンパンを食べていた。もうあたりはすっかり暗い。大通りから駅の方へ曲がってきたバスが、ちょうどぼくの方に向かってまっすぐに進んでくる。周囲が暗いのと、バスの中が明るいのとで遠近感がおかしくなって、すぐ近くにまでぐぐっと迫ってくるようだった。ゆっくりとした速度なのでかえって圧迫感がある。ロータリーでこちらを避けるように右へ方向を変え、さらにくるっと左へまわって、左脇腹を見せて、目の前のバス停で止まった。その動きをずっと、大きな動物のように感じながら見ていた。