●藤沢にある大型書店に行くために電車に乗ったのだが、そのまま電車に乗りっぱなしで、大船あたりで折り返して何度も行ったり来たりしていた。土曜の午後の東海道線は、上りはがらがらだけど、下りはちょっと混んでいた。とはいえ、混んでいるといっても「座れない」というくらいのことで、いつも混んでいる中央線よりはかなり空いている。東海道線から見える風景はぼくにはまだ新鮮で、まずは平らな土地で高い建物がないから視界がどこまでも広くて、次に、海が近いせいか空の表情が多彩でめまぐるしく変化する。海の方の空は今にも降り出そうに重たく暗くても、線路の近くはまぶしく日が照っていたかと思えば、遠くの空が澄んで雲がみるみる煙のように薄くなり、こちら側が陰ってきたりする。太陽の射す角度の変化によって刻々と地上の様子も移り変わって、その変化をすごく広い範囲で見渡せる。電車に乗っているのだから、歩いていたりバスに乗っていたりするよりはやや高い位置からの視線だと言えるけど、高い建物から見下ろすのとは違って、水平に近い視点ですごく視界が広くなるというのはちょっと不思議な感じだ。地形的には平らなのだけど、何もない平面が均質に広がっているのではないので、建物や緑の濃淡や道のうねりがあり、光の当たり方のばらつきがあるのという様を広範囲で見られる。そのような変化を、さらにかなり早い速度で移動しながら見ているから、高さによる俯瞰とはちょっと質の違う俯瞰的な空間(水平的俯瞰というか)の把握の仕方という感じになる。
電車の速度で移動しながら見るととても面白いこのような風景も、歩くという速度で見ているときは、地上の変化が平板で乏しくいので、空ばっかり(上ばっかり)見て歩く感じになってしまう。
そういえば、もう夏至は過ぎてしまったのだった。