●『3人のアンヌ』(ホン・サンス)をDVDで。
ホン・サンス映画は、パリを舞台にした『アバンチュールはパリで』でもほとんど韓国の人しか出てこないし、『浜辺の女』の主人公の映画監督(男)は、韓国女性が外国の男性と付き合うことに対する強い感情的抵抗があることを語っていたりして、なんというか、その作風(タッチ)や味わいと、韓国社会における因習や空気とがけっこう不可分で密接に絡んでいるように思っていた(そのような、ドメスティックな感触の強い作品が国際的に大変人気が高いというのも面白い)。とはいえ、登場人物や物語の根幹がドメスティックなものから出ていることと、映画として、作品としての形式性とはまた別の話ではあるけど(例えば小津とか)。
だから、あまりにフランス的なフランス女優であるように思われるイザベル・ユペールが出演するということに、ちょっとどうなのかなあという感じが観る前にあった。実際に観てみても、最初の方は、韓国の田舎に「英語を話すフランス女性」があらわれることの分かり易い異化効果を使った、分かり易くよくできたコメディのようになっている感じで(とてもうまくつくられているのだけど、うますぎるがゆえになお一層)、いつものホン・サンスのあのグダグダ感があまりないというか、登場人物のダメ人間度が足りないのではないかと感じられて、ちょっとイザベル・ユペールに気を使ってるんじゃないかという感じもあった。技巧的すぎるかなあとも、思った。
(アジア的な社会のなかにヨーロッパの女性が一人ぽつんと紛れ込むという系列が映画にあって、この映画化は「ホン・サンスの映画」であるより、そのような系列の映画のバリエーションの一つのようになっているのかなあ、と。)
しかしそれさえホン・サンスの計算のうちだったかもしれず、映画が進んでゆくうちにほんとうに少しずつ、イザベル・ユペールの存在が、たんなる異化効果的役割から解放されて、生き生きと自在に動くような感じになってゆき、最後の最後には、この「英語を話すフランス女性」がまぎれもなくホン・サンスの登場人物だとしか思えない存在にまでなっていて、おお、やはりホン・サスは素晴らしいなあと思ったのだった。
(イザベル・ユペールホン・サンス的な人物にするための映画で、だから、それ以外の人物のホン・サンス度は、ちょっと薄かったかもとは思う。)