●「note」に、2006年にA-thingsで行ったドローイングの展覧会の画像をアップしました。この画像データはずっと行方不明だったのですが、最近、古いCD-Rに保存されているのを発見しました。
https://note.mu/furuyatoshihiro/n/n40276ba9d3e6
●柄沢祐輔さんがツイッタ―に書いているエリー・デューリングの「プロトタイプ論」の話が面白い。
≪フランスの哲学者、エリー・デューリングさんとお会いし、飯田橋のキャナルカフェで2時間半に渡って、世界の哲学と文化、芸術の最先端の動向、現在の建築の世界の潮流について、議論を行った。≫
≪エリー・デューリング氏の「プロトタイプ論」は、近代の完結した作品(オブジェ)でもなく、ポストモダンから現在に至る「終わらないプロセス」を主題とした「開かれた作品」(プロジェクト)の概念でもない、その中間の地点を新たな芸術概念「準芸術=プロトタイプ」として定義しようというもの≫
≪このプロトタイプ論は、今日のアルゴリズムによる創作を考える上で、極めて大きな意味を持つ。なぜならば情報技術を利用して創作を行うことは、とりもなおさず無限の可能性の中から、一つの可能性を切り出すことであり、本来的に終わらないプロセスを、完結した作品として切り出すことを意味するからだ≫
≪この当たりの機微を、デューリングさんは極めて上手く論理的に説明してくれた。彼によると、内燃機関の発達が、このプロトタイプを考える上で極めて良い事例になるということ。その概要を、「安定化(スタビリティ)」と「不安定化(メタスタビリティ)」という二つの言葉で説明をしてくれた。≫
≪かつて自動車のエンジンは、その発する熱によって度々炎上するという問題があった。そこでエンジンを冷やすための、空冷の機構の形状がさまざまに検討された。この形状を多様に検討することをプロトタイプ論では「不安定化」と呼び、最後にひとつのデザインの形状を決定することを「安定化」と呼ぶ≫
≪この「安定化」によって生み出された形状は、様々な形状の可能性から取り出されたもの、ひとつのオブジェだが、それがうまくデザインされたならば、空気でエンジンを冷やすという目的(プロジェクト)によって生み出される様々な可能性をすべて包含している。そのためにそれは「プロトタイプ」となる。≫
≪以上がデューリング氏の説明だが、私見では、今後さらにデジタル・ファブリケーションやアルゴリズムなどの情報技術を用いたデザインが浸透するにつれて、デザイナーや建築家の試みは、この「プロトタイプ」をどのようにして作るかということが、大きな目標であり、問題系となるのではないかということ≫
≪そんな刺激を受けながら、エリー・デューリング氏にs-houseの写真を見せたところ、これはまさに「プロトタイプ」に他ならないとおっしゃってくださった。このアイデアが、住宅を問わず、商業施設や美術館、公共施設などのビルディングタイプを問わずいかなる建築にも応用可能であるためだという≫
●これを受けての清水高志さんの反応。
≪このスタビリティ、メタスタビリティという議論は、シモンドンも援用しながら語られたようだが、ピエール・レヴィの「ヴァーチャル、アクチュアル」の議論と通じる。結果として出来上がったものがプロジェクトを内包する、というのも面白い。≫
≪ヴァーチャル、アクチュアル、リアル、ポッシブルの話は、勿論ドゥルーズを援用しながらレヴィの情報哲学の中で出てくるのだが、これらは四つ巴で複雑な関係を織り成すものとして考察も可能だ。≫
≪先日日仏でデューリング氏の講演を聴いたとき、ディレイ(遅延)の問題について彼が触れていた。そのとき僕は「何からの」ディレイなのかはっきりさせるべきで、むしろ目的性からのディレイという風に言ったほうが良いだろうなと思ったのだが、≫
≪その目的性がプロジェクトという言葉で考えられており、プロジェクトそのものよりもある意味で先立ち、暫定的に置かれている準オブジェクトなりプロトタイプなりがある、という話になるようである。≫
≪気になるのは、彼がまたホワイトヘッドをどう位置付けているかだ。先の四つ巴のうちに恐らくバランスよく配して立論しているはずだ。≫
≪メタスタビリティは、レヴィが言う「問題提起的な複合体」への遡行としてのヴァーチャル化に近いものだろう。。≫
≪この「メタ」のニュアンスを入れて彼が「メタフィジックス」ということを言っているなら、それは「ヴァーチャル化、可塑化した自然学、技術論」というニュアンスをもったメタフィジックス(形而上学)、という性格のものなのかも知れない。≫
≪手元の辞書でmetaという接頭辞を改めて引いてみると、?連続、変化?超越、包括、といった語義がでてくる。。これまで哲学ではこのうちの?の前者にかなり限定してこの接頭辞を用いていたのではないか。連続、変化、そして包括としてのメタのあり方とは何だろう。≫
●metastabilityという単語を検索すると、「JST科学技術用語日英対訳辞書」では、準安定性、転移可能性と出て、「Weblio英和対訳辞書」では、≪真の安定状態では無いが、大きな乱れが与えられない限り安定に存在できるような状態。≫となっている。
これだと、分かったようで分からないような感じなので、もう少し「メタスタビリティ」という言葉を検索してみると、例えば次のような文に行き当たった。
≪非同期データ転送では、送信側と受信側のクロックに位相関係がまったくありません。つまりセットアップやホールドなどのタイミング違反が発生する可能性があります。タイミング違反が発生すると、レジスタ内では1/0の中間電位をさまよった後にランダムに1、0に落ち着くという振舞いをします。これがメタスタビリティと呼ばれる現象です。≫
http://www.mentorg.co.jp/training_and_services/news_and_views/2011/winter/feature_story_fpga/
あるいは、
≪フリップフロップの出力は、データ/リセット信号のセットアップ/ホールド時間の制約に違反するとメタスタビリティの状態に陥ることがある。この状態は、データの送り側と、データを受け取るフリップフロップが非同期のクロックドメインに存在する場合に発生する。このようなメタスタビリティ状態を避けて下流の論理回路にきれいな信号を供給するために、シンクロナイザが使われる。シンクロナイザは、フリップフロップを利用した簡単なものでよい。≫
http://ednjapan.com/edn/articles/0808/01/news132.html
これだと随分ニュアンスがかわってくる。要するに、非同期的な回路の間で信号がやり取りされる場合、それぞれの回路でクロックのタイミングが異なるため、信号が0と1との中間をさまよって、どちらかにランダムに落ち着くという事態が起こってしまう、という理解で良いのだろうか。これだと、準安定性というニュアンスよりも、転移可能性、あるいはまさに不安定化という感じで、ヴァーチャル―アクチュアルという軸に近いイメージが得られる感じ。この非同期的な感じは、郡司ペギオ的なイメージでもある気がする。
それにしても、清水さんも書いているけど、このような「安定化(スタビリティ)に対する不安定化」を「メタ」という接頭辞を使って表現するというのは面白い。