●出かけた帰り道、間違えて湘南新宿ラインの逗子行きに乗ってしまい、大船を過ぎて「次は北鎌倉」というアナウンスがあってはじめてそのことに気がついた。あーっ間違えた、と思い、大船と北鎌倉なんてほんとにすぐ近くなのだが、こっちの方にはなかなか来ないものだなあとも思った。景色もホームの雰囲気も東海道線とはがらっと変わる(東海道線の大づくりで平坦な単調さ--風通しのよさと言うこともできるが--とはずいぶん違う)。北鎌倉の駅で反対のホームに行くためには細長いホームの端まで歩いて駅内の踏み切りを渡らなくてはいけない。端まで歩く間にもう次の下り電車が来て踏切のバーに行く手を阻まれる。触れそうな至近距離を車両がゆっくり動いてゆく。
反対側のホームに渡り、狭いホームをずんずん進む。電車から降りた人が去ってしまうと、まだ午後八時前なのに上りも下りもホームには誰も人がいない。次の上りの電車まで五、六分というところだが、今日はやけに寒い。体感的にはこの冬で一番寒い。震えながら、北鎌倉のホームに立っているのはいつ以来のことなのだろうと考えていると、そういえば『パノララ』に、大船から鎌倉に出て江ノ電江ノ島までゆく場面があったことを思い出した。鞄のなかに本が入っているので、小説にちょっとだけ引っ張られたのか、と思った。