●『スーサイドサイドカー』(鎮西尚一那須千里)をDVDで観た。このDVDは鎮西さんから頂いたもので、ソフト化はたぶんされていない(クレジットがないので、どういう経緯でつくられたものなのか分かってません)。
ぼくとしてはこの映画はツボにはまりまくりで、特に、主人公が韓国から来たという女の子と橋の上で出会って動物園にいっしょに行く一連の流れは、カットがかわるたびに、おおーっ、となって高揚が増してくる感じ。おっ、こんなことするのか、えっ、そうくるのか、ここでこんなポーズか、えっ、歌うのか、おおー、動物をこんな風に撮るのか、みたいになって、10分にも満たないシークエンスの充実度がすごい。ぼくはこういう映画が観たいんだ、という感じ。この感じで三時間くらい続く映画をつくってはもらえないだろうかと思った。
で、この少女の役がすごく良くて、こんな面白い人をどこで見つけてきたのだろうと思っていたのだけど、二度目に観た時に、「あれ、この人、長宗我部陽子だ」と気づいた。一度気づいた後からすると、なぜ最初から気付かなかったのか不思議なのだけど。つい最近『サロメの娘』や『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』で観たばかりなのに(『狂気の海』も大好きなのに)。
気づかなかったのはおそらく、年齢的に噛み合わないので、そうであるはずがないという判断のブロックが無意識のうちにかかっていたのだと思う。長宗我部陽子は、たしか九十年代中頃に今岡信治(いまおかしんじ)のデビュー作でデビューした人だったはずで、その時点で未成年ではないはずで、つまり、どう考えても40歳は越えている。この映画が撮られたのは五、六年くらい前で、だとしても三十代の後半ということになる。
でも、この映画のこの役はあきらかに「少女」という設定だと思われ、衣装も演技も演出も、そういうものとしてつくられているようにみえる(ローティーンではなく、二十歳前後くらいの感じなので、「少女」という語はあまり適当ではないかもしれないけど)。前半は、リヴェットの映画の少女のような衣装で、後半はロメールの映画の少女のような衣装だ。最初に観た時、この人は、あからさまに少女っぽい衣装で、少女のクリシェのような位置を与えられているのに、ちっとも甘い感じにならなくて、ソリッドな感じというか、イメージに輪郭線の強さのようなものがあって、そこがすごく面白いと思ったのだけど、この「甘くならない」(萌えにもツンにも転ばない)感じは、「中の人」が実際には三十代だということもかなり効いているのではないかと思った。
(とはいえ、最初に観た時は普通に二十歳くらいの人が演じているのだろうと思って観ていた---そういう風にしか見えなかった---ので、いかにも若作りしてやってますというような人工的な感じがあるということではない。)
たどたどしい日本語と長宗我部陽子の特徴的な声(普通、この声で気づくだろ、と、後から思う)がすごくぴったりハマっていて、それもまたこの女性像のイメージの強さになっていると思った。たどたどしいというより、母国語ではないのでニュアンスがなくて同じ調子で常に強く言い切る、という感じか。それから、太極拳がこんなに面白い動きだったということをはじめて知った。
三輪二郎「スーサイドサイドカー」のMV。映画の映像が使われている。
https://www.youtube.com/watch?v=fPbFUxVSXbw