●『響け!ユーフォニアム2』、10話。田中先輩エピソードは前回で終了なのかと思っていたら、さらに攻めてくるのか。田中先輩の鉄壁のガードをえぐる黄前。
一方に、やりたいことをあきらめて後悔している人(姉)がいて、もう一方に、今まさにやりたいことをあきらめようとしている人(田中)がいて、その両者をみている黄前が、後者に対してあきらめないようにと強くメッセージを発する。これは物語としては定型中の定型と言えて、こういう構えの展開を今まで何度みたことだろうかと思うのだけど、紋切り型とも言えるこの展開が、こんなにも表現力と説得力をもつのは、これまでのキャラや関係性の描き込みがあってのことなのだろうと思う。
というか、やはり黄前久美子というキャラクターの力なのだろうな、と。「先輩、あきらめないでください」と叫ぶ青春ドラマの熱いキャラと、やっていることは同じなのだけど、その厚みが全然違う。一期の黄前は、吹奏楽部の関係のなかではずるく立ち回りながら、高坂との関係だけが特別のものであった。そしてその特別さは、中学時代の「失言」に基づいていた。しかし二期では、ずるく立ち回ることを少しずつやめるようになり(失言が特別ではなくなり)、田中先輩との対決場面では、失言ではなく、簡単には出てこないものを必死で押し出すことで、その堅いガードを揺るがす。
黄前は表現的なキャラクターではない。抑制的であるが、しかし本音が漏れるという形で、その独自な表現性が周囲に爪痕を残す。ガードが堅く、かつ、緩い。それは、強く押し出すというより、ポロッとこぼれてしまうものだ。しかし、ポロッとこぼれるのではなく、稀に強く湧き出る感情があり、それは、一期においては「上手くなりたい」であり、二期においては姉に対する涙であろう。これらの、感情の強さによって湧き出てしまうものは、黄前が普段は抑制的(脱力系)であることから強い効果をもたらす。
しかし、田中先輩への言葉はどちらでもなく、言いたいことを必死で押し出している。この場面で、姉と重ねられているのは、田中先輩である以上に黄前自身だと言える。ここで「わたしは田中先輩と吹きたい」と田中に対して強く主張できなかったら、ここで田中が出られないのは仕方のないことだとあきらめてしまったら、後で絶対後悔するだろう、と。ここで黄前は、ついポロッと言ってしまうのでも、押さえきれずに湧き出してしまうでもなく、言わなければいけないと意識し、言おうと努力して、言っている。こういう場面は今までになかったのではないか。
ここで田中先輩のリアクションをみせる時間を充分にとらずに、パッと切ってラストの逆転につなげる流れも効いている。田中先輩はあくまでミステリアスであり、黄前の言葉に動かされたのか、それとも、模試の成績を母への最後の交渉手段として予め考えていて、実は完全にあきらめてはいなかったのか、どちらにもとれる含みを残すところが、この作品の深いところだと思う。
田中先輩エピソードが前回で終わりだったら、高度で上品な表現ということになっていたと思う。しかし、陳腐な紋切り型になってしまう危険を背負ってまで、もう一歩、二歩とぐいぐい押してくる。そしてそれによって、表現はさらに高度で強いものとなる。「ユーフォニアム」すげえな、と、感嘆するばかりだ。
(この「押し」が、ぼくのつくるものにはないのだなあ、という反省がある。)
(一期が、黄前と高坂の関係が軸になっているとすれば、二期は、黄前と田中先輩の関係が軸だったのだなと、今回の話を観て思った。)
(全体として、かなりテンポのはやい演出だと思うけど、チューバの後藤だけはやけにゆっくり喋るとか、そういう緩急も冴えていると思う。)