●「現代思想」のビットコインとブロックチェーン特集の対談で、斉藤賢爾という人がブルース・スターリングの「招き猫」という短編小説を紹介しているけど、これって、「ガッチャマンクラウズ」の元ネタの一つっぽい気がする。
《これは近未来の日本を舞台にしているのですが、「招き猫」はコミュニティの名前で、コミュニティの仲間であることを示すのが招き猫のポーズなのです。これは一九九七年に発表された作品で、当時はスマホがまだなかったのですが、作品の中では似たようなものが「ポケコン」と呼ばれています。そのコミュニティではポケコンから人間に指示が常に飛んできて、貨幣経済とは共存しているのですが、独自の経済をつくっています。例えば、スターバックスに行ってコーヒーを頼んだら、ポケコンから「同じものをもう一杯買え」と言われます。それで了承して、貨幣を用いてもう一杯買って、家に向かって歩いていくと、ベンチに座っているやつれたビジネスマンがいて、「この人に渡せばいいの?」とポケコンに聞くと、「そうです」と言われてコーヒーを渡します。すると、見ず知らずのその人が「あなた誰?」と驚きつつも、コーヒーを飲んだら「これは私の好きなコーヒーだ。ありがとう!」となるのです。ネットワークが裏で勝手に調整してくれていて、シェアリングエコノミーの極みみたいなことが起こります。この小説のなかでは「ネットワーク贈答経済」と呼ばれていますが、つまるところ贈与経済ですね。この世界では、ネットワーク化された人工知能が働いていて、その人が欲しいと思っているものを検出して、マッチングしてくれ、ひっきりなしに人助けをしないといけないのですが、人助けをしていると気分がよいのであまり気にならず、それにより皆が助けられています。これによって貨幣経済は縮小するのです。それでアメリカが怒りに来ます(笑)。アメリカの経済エージェントが怒りに来て、「あなたたちのやっていることは脱税だ」と。政府が認める規則経済を弱体化する悪党どもとして怒られるという話です。》
●そして、対談の相手である中山智香子の発言。
《不当な権力が支配権を握っている状況を覆すための戦略に関して、アメリカの政治学者のジーン・シャープが一九八個の具体的な方法をまとめた著作(…)がありますが、最後の項目が「二重統治や並行政府を打ち立てる」でした。これを見たときには、「いやいや、そんなことはなかなかできないでしょう!」と疑念を持ったのですが、実はデジタル貨幣がそれなりの規模で機能すれば、意外とあっさりそれに類する状態ができてしまうのではないかと思います。特に二重統治や別の政府、別の銀行などを名乗らなくても、実体(実態?)としてできてしまう。昨今、既存の政治システムのなかの一員としては、三権分立の原則はどうなってしまったのかなど日々怒りと絶望にさいなまれている現実があるのですが、他方でそういう意識を必ずしも持っているとは限らない人びとが、既存の権力を出しぬいてしまうのは驚きですね。》
●しかし、そのような別の銀行、別の経済が、ある程度成功し、ある程度以上の影響力をもつようになると、それにより国の定めた貨幣経済がその分縮小する(課税もできない)ので、国の利益とぶつかり、国と闘わなくてはならなくなる。国が、《あなたたちのやっていることは脱税だ》と怒りに来る。それは違法だ、として禁止されれば抵抗できない。でもその時既に、その「別の経済」が社会の奥深くまで浸透してしまっている場合は、黙認せざるを得なくなるかもしれない。