2019-10-31

●「意識」をどのように定義するのか、あるいは、外からそれをどのように測定するのか。また、生殖によって生まれた「脳」と、幹細胞から培養された「脳」との間に、「人権」の重さの違いを認めてよいのか、など、難しい問題を、科学の進歩によって、突きつけられる。

人工培養された小さな脳がヒトと類似した脳波を発生(Newsweek)

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/09/post-12908.php

《幹細胞生物学の学術雑誌「セル・ステム・セル」で2019829日に公開された研究論文によると、米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のアリソン・ムオトリ教授を中心とする研究チームは、ヒトの多能性幹細胞から試験管内で作製した「脳オルガノイド(組織構造体)」と呼ばれる豆粒大の人工脳をヒトの脳に似た細胞構造を持つものへと発達させることに成功。》

《培養開始からおよそ2ヶ月で脳波が検出されはじめた。未熟児の脳でみられるように、信号はまばらで、同じ周波数であったという。その後、「脳オルガノイド」が成長していくにつれて、信号が定期的に現れるようになり、様々な周波数が検出された。これは「脳オルガノイド」のニューラルネットワーク(神経網)がさらに発達したことを示すものだ。》

《なお、「脳オルガノイド」が意識などの精神活動を有しているとは考えにくい。ムオトリ教授は「この『脳オルガノイド』は非常に初歩的なモデルであり、他の脳の部位や構造を持っていない。『脳オルガノイド』が発する脳波は、実際の脳の活動とは関係がないだろう」としたうえで、「将来的には、行動や思考、記憶を制御するヒトの脳の信号と近しいものが検知されるようになるかもしれない」と述べている。》

《研究チームでは、今後、「脳オルガノイド」を改善し、自閉症てんかん統合失調症など、ニューラルネットワークの機能不全に関連する疾病のさらなる解明に役立てたい考えだ。》

意識がある? 培養された「ミニ脳」はすでに倫理の境界線を超えた 科学者が警告(Newsweek)

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/10/post-13266.php

《米ハーバード大学の研究チームが2017年に発表した研究論文では、「脳オルガノイドが大脳皮質ニューロンや網膜細胞などの様々な組織を発達させる」ことが示され、20184月にはソーク研究所の研究チームがヒトの脳オルガノイドをマウスの脳に移植したところ、機能的なシナプス結合が認められた。》

《また、カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームは20198月、「脳オルカノイドからヒトの未熟児と類似した脳波を検出した」との研究結果を発表している。》

《脳オルガノイドのような「生きた脳」の研究によって医学が一変するかもしれないと期待が寄せられる一方、脳オルガノイドが十分な機能を備えるようになるにつれて、倫理上の懸念も指摘されはじめている。》

20191018日から23日まで米シカゴで開催された北米神経科学学会(SfN)の年次総会において、サンディエゴの非営利学術研究所「グリーン・ニューロサイエンス・ラボラトリ」は、「現在の脳オルカノイドの研究は、倫理上、ルビコン川を渡るような危険な局面に近づいている。もうすでに渡ってしまっているかもしれない」と警鐘を鳴らし、「脳オルカノイドなど、幹細胞による器官培養の倫理基準を定めるうえで、まずは『意識』を定義するためのフレームワークを早急に策定する必要がある」と説いた。》

《「グリーン・ニューロサイエンス・ラボラトリ」でディレクターを務めるエラン・オヘイヨン氏は、英紙ガーディアンの取材において「脳オルカノイドが意識を持っている可能性があるならば、すでに一線を超えているおそれがある」と指摘し、「何かが苦しむかもしれない場所で研究を行うべきではない」と主張している。》