2020-10-15

●「追いつかれた者たち」を書いた濱道拓の新潮新人賞受賞インタビューが興味深い(「新潮」2020年11月号)。まず、小説が書かれた経緯を教えてくださいという問いの答え。

《4年ほど前に見た夢が始まりでした。自分が、誰かを廃屋のような場所に閉じこめて、追い詰めて殺してしまうという内容です。そのような夢を見たという恥の意識が強く残り、とにかくその夢を書き留めよう、書き留めなければならないという気持ちがありました。夢の正体を突き止めたいというか、夢の中の自分のような人間が、現実にどういった行動をとるのかを知りたかった。作中人物のひとりが、夢における自分でした。ほかの人物は、彼が分裂した存在かもしれません。

最初に出来上がったのは、到底小説とは呼べない断片的な文章でした。このイメージを、何とか一つの作品に仕上げたくて、4年かけて少しずつ膨らませていったのが本作です。》

●以前なら以下のような「孤独」はありふれたものだったかもしれないけど、インターネット以降の現在では、それはむしろ得難い貴重なものと言えるのかもしれない。

《高校のころから日記のようなものは書いていて、いつか小説を書きたいと、ずっと思ってはいました。しかし、小説を書いたり読んだりするということを、今まで誰とも分かち合えたことがなく、ずっと後ろ暗いものだと考えてきました。実際、多くの人が、読書家や物書きを、異質でやや気持ち悪い存在とみなしています。「ドストエフスキーを読んでる」と話して、鼻で笑われたこともありました。》

●妻が、「私が書くことに頓着しない人」だからよかったというのがおもしろい。そして、「書く」ということに対して必ずしも肯定的ではない複雑な感情をもっているところも興味深い。

《妻と二人の子供がおります。妻は私が書くということに頓着しない人です。だから私も彼女には「書いている」と打ち明けられる。もしかすると、そういう存在がいるから書けたのかもしれません。彼女と出会うまでは、先述のような世間の、小説に対する偏見を私自身、内在化しているところがあり、書くことに否定的な気持ちもかなり強かった。子供が生まれてからはさらに、自分の書いた言葉に自分で動揺することが、無くなりました。しかし、書くということに対しては未だ、一筋縄ではいかない思いがあります。》