2023/12/04

⚫︎よく、道具(あるいは技術)そのものはニュートラルで、それを使う人間の側が問題なのだということが言われるが、おそらくそうではなく、道具(技術)こそが人間を使っているのであって、だから、人間を変えるためには道具(技術)を変える必要があるのだと思う。

これは、近く発表される予定のVECTIONのテキストに書かれていることの一部の先触れというか、先漏らし(匂わせ)のようになってしまうが(つまりぼく個人が考えたということではないが)、レコメンドシステムやSNSの問題の一つに、全体像が示されないということがあるのではないか。

たとえば図書館、あるいはリアル大型書店で、自分が興味をもっているジャンル(傾向)の本のある場所に到達するためには、それが、本が置かれるている空間全体の中でどの辺りの位置にあるのかを知り、興味のない本が置かれている書棚たちの空間を通り抜けて、そこにまでいく必要がある。そして、図書館あるいは大型書店には、自分以外の客がいて、自分としてはその存在すら意識しないくらいに興味のないジャンルの本が置かれている場所にも人がいる。つまり、自分の興味の外にも空間的広がりがあり、他者がある。そのことが、空間的、直感的に(意識まではされないとしても)知らされる。

それに対し、たとえばAmazonなどの「おすすめ」は、ただ、おすすめのみが示され、その数少ないおすすめから選ぶことになり、その「外」の広がりの情報はゼロになる。あるいは、SNSでは、自分が設定したタイムラインと、全体のトレンドが示されるだけで、全体像(地図)や他者たちの動向のばらつきが示されない。ここに決定的な欠陥があるのではないか。

このとき、興味の範囲以外に視野が広がったり、誤配が起こったりする必要は必ずしもない(起こればそれに越したことはないが)。ただ、全体の配置があり、他者たちの別の動向があることが、直感的に知られる(体感される)だけでかなり違うのだと思う。それだけでフィルターバブルはかなり抑制できるのではないか。

VECTIONがたびたび取り上げているもので、r/placeというものがある。これは、100万ピクセルのキャンバスがあり、一人、一度に1ピクセルだけ自由に上書きできるという実験を72時間にわたって行った画像の早送りだ。

Reddit Place (/r/place) - FULL 72h (90fps) TIMELAPSE - YouTube

一度に1ピクセルしか関与できないが、何度でも、人が描いたものの上から描き直すことができる。一度に1ピクセルしか関与できない、バラバラな個人がいるだけなのに、所々で、ひとまとまりのイメージが生成されたり、破壊されたりという共同的な動きが生成し、繰り返される。つまり、この画像が世界地図であり、画像の変化が人々の動向で、それが見えている上で、そこに対する自分の(1ピクセル分の)の関与が決定できる。全体の広がりとその中での自分の位置がわかる。

レコメンドシステムやSNSに必要なのは、このような、刻々と変化するリアルタイムの世界地図であり、それがあった上で、あなたへのおすすめはこの辺りにあり、あなたのタイムラインの分布はこのようにあり、トレンドはここにある、ということがわかる表示法なのではないかと思う。

(追記。とはいえ、このような世界地図は統計的な操作によって導かれるものとなるはすで、そうである場合、操作の仕方でいくらでもバイアスをかけることができてしまう。だからこの場合、統計的操作のアルゴリズムが完全に透明であり、かつ、集計過程が改竄不可能な形ですべて記録されていなければならない。ゆえに、このような技術はブロックチェーンによって初めて可能になる。r/placeはそのようなものではないので、あくまでイメージだ。)

(近いうちにVECTIONから、「リベラリズム・実装・エビデンスから、トラストレスなイメージへ」というテキストがアップされると思います。おそらく今年中には…?。VECTIONでは、週一でリモートでミーティングをしていて、テキストもその時間内に共同で書くので、どうしても時間がかかってしまう。)

vection.world