01/6/8(金)

一斗缶から黒々とした液体が零れている。そのなかには、だらしなくふやけて膨らんだ吸い殻がびっしりと浮かんでいる。パチンコ屋の店員が、吸い殻入れのなかの濁った水を、店の表の下水道に捨てている。吸い殻が下水道へ落ちてしまわないように、大きな茶漉しのような笊をかけている。道の隅にしゃがんで、重そうに一斗缶を持ち上げている女子店員。タール混じりの真っ黒な水が垂直に垂れる。時々、濁った水を吸ってふやけた吸い殻が一斗缶のなかからポロポロッと零れ、笊の上に落ちる。店の自動ドアが開いて、なかからの音が溢れ出てくる。店内からの光とネオンの光。

夜9時すぎ、本屋の二階にいる時、外から何やら不穏な叫び声と、それにつづいてやけにかん高い笑い声が聞こえ、それが何度か繰り返された。ざわついた妙な気配。表で何かあったのだろうか、と思った。本をレジへ持って行って、お金を払い、階段を降りて外へ出ると、もう既に騒ぎの気配は全く無くて、普段通りに大勢の人たちが乱れることなく行き来していた。しかし、少し先の駅前のあたりで、やたらと大声を張り上げている男がいることに気付いた。近づいてゆくと、何のことはない、「明日、6時から、○○ホールで、都議会議員選挙のための討論会を行います」と叫んでいるのだった。しかし、声を枯らして叫んでいるその男は、拡声器さえ使っていないし、近くでビラを配っている人がいる訳でもなければ、のぼりが立っている訳でもない。人々の喧噪が渦巻き、バスのエンジン音も聞こえ、ビル風も吹いている駅前の騒音のなかで、そのなかに呑み込まれ、たった一人で、通らない声を張り上げているのだった。