トムと紫陽花

そこここに咲いている紫陽花の花は、雨が少ないのと日射しが強いせいでだろうか、もうほとんどがすっかり萎びて、色もくすんでしまっていて、葉っぱばかりがやけに元気よく、青青と茂っているのだが、アトリエへ行く途中にある、中学の正門の脇に咲いているやつだけは、すぐ横に川が流れていて、水分が豊富なのと、大きく横に枝を拡げていて、豊かに緑の濃いい葉をびっしりつけた木で、ほぼ一日じゅう影になっていて、強い日射しが遮られているためだろうけど、今でもまだ、瑞々しい、と言うよりも、涼し気で深みのある感じの、クールでかつ危うい、薄い青紫色の花を咲かせているのだった。

アトリエの隣に住む老夫婦が飼っている、やたらと吠える臆病なアホ犬が、この暑さで参ったらしく、ぐったりと地面に腹をつけていた。トムちゃんすっかりバテて動けなくなっちゃったのよぉ、と隣のオバさんが言った。ちょっと見にもかなりの衰弱ぶりで、恐らく相当に高齢だろうし、もしかしたらこの夏持たないのじゃないだろうか、なんて、ちらっと思ってしまうほどだった。それでもぼくが近づいてゆくと、怯えたように身体をビクッとさせるのだけど、いつものように激しく吠えることは出来ないのだった。